『現』と『朧』の狭間

 

 

 

 

あの時、受け持ちとなっていた小さい下忍3人の記憶を抹消した後、

カカシとイルカは里を抜けた。

 

その場にいた証拠を消すのには、一刻も掛からなかった。

十年近く木の葉に居着いていたが、物に執着することもなく、

家も寝床以外使うことは殆どなかったから。

忍としての習慣もあり、部屋に生活感が残されることは一切なく、

使っていた物を処分した今、もし誰かが見ても人が住んでいたとは

思えない状態に戻っていた。

里に登録されているため書類は残っているだろうが、

抜け忍になったと知れた瞬間、

それは里の登録されている忍から暗部の暗殺対象リストへと

移されることはわかっていたため、

あえて抹消するという面倒なことはせずに放っておいた。

このまま自分たちが消えたら、昔馴染みのアスマ辺りが何かやらかしそうだが、

里を抜けた後の自分たちには関係ないだろう。

そう結論を出し、行動に移し…誰にも告げることなく、里を抜けた。

木の葉の額宛は、里を出た時に火遁の術により跡形もなく燃やし、灰はそのまま放置する。

隠れ里に所属する忍がつける額当てには、持ち主が故意にそれを捨てた場合に、

術が発動する仕組みが組み込まれている。

だから、燃やした時自動的に、暗部の追い忍へと報告がまわっただろう。

抜け忍、暗部の上忍2名。死体処理班に出動要請、と。

 

普通なら、追い忍が抜け忍を追い里を出てから、

残ったものが上層部へと報告をする。

しかし、今回は、追い忍を出す前に、上層部へと緊急に情報が通達された。

死体処理班の暗部が抜け忍を追うため、

その術が発動した額宛を着けていた者を調べ

…思わず絶句してしまったから。

抜けたのが

あの、

 ・・はたけカカシとうみのイルカ・・

だと、知って。

緊急に会議が開かれ、上層部や二人を知る暗部が呼び出される。

そしてその後すぐに、追い忍が放たれた。

それも、通常の倍の数の。

 

彼らの力は、今までその実績により他国を牽制していた

木の葉の上層部には嫌というほどわかっていた。

だからこそ、通常の追い忍では太刀打ちできないだろうと。

そして、きっとこの数の追い忍ですら、全滅させられるだろう、と。

 

出された指令は、通常のものとは違った。

普通なら、抜け忍を抹殺し全ての痕跡を抹消してくることが、死体処理班の任務。

しかし、今回は


『この二人が、他の里へと入らないように、牽制しろ』、


という命令だった。

『消せるものなら消して来い、と。それが無理なら監視をしておけ』、


という、無責任に近い命令。

たとえ監視をして牽制しても、この二人が他の里へと行こうと思ったら、

きっと自分たちなど簡単に消されるだろう。

しかし上層部の決定は絶対。

木の葉に所属する暗部、追い忍部隊の忍は、急に舞い込んだその任務を遂行するために、

抜けた忍二名を追い里から出た。

 

猿飛アスマにより、里にいる全ての忍の記憶は消されている。

広範囲に聞く記憶消しを得意としたアスマの術の効力は、限りなく強い。

ただ、落ち度があるとしたら、最初から術を掛けられる可能性を知っていた、

幻術に強い忍には、効かないと言った程度か。

記憶を消される可能性を知っていたスリーマンセルのうち、

幻術に強かったサクラには、その術は掛からなかった。

しかし、彼女とアスマ、そして上層部の人間と暗部以外に、

二人を覚えている者は存在しない。

このまま彼らが消えたとして、何も問題は起こらない。

そう判断した上層部の手により、彼らに関する書類は全て抹消された。



 

その後、うちはサスケとうずまきナルトは中忍へ昇格。

春野サクラも一年遅れて、中忍へとなった。

そのまま上忍、暗部へと登っていった二人とは違い、

サクラはアカデミーの教師になるための勉強を始める。

そして現在、アカデミー年少部の教師になったサクラと、

暗部でも指折りの手足れに選ばれたサスケ、ナルト。

暗部に入った今でも、暇さえあればサクラの元へ行き三人で

過ごしているサスケとナルトは

どうして特別上忍にならなかったのか、とサクラに何度か聞いた。

その度にサクラは曖昧に笑みを浮かべ、そして・・・


実力不足だからと付け足すように答える。

その理由を彼らが知ったのは、その数年後。

5年程前に抜け忍になった二名の暗部を捕獲せよとの命令が出て、

そしてその暗部の二人の名前を思い出した瞬間。

彼らは、サクラの言っていた言葉の意味を理解した。

 

どうしてもね、なれないのよ。…怖くて。

怖くて、私は外の任務を受けることは、できないから。

 

サスケ君、ナルト…。先生たちのこと、覚えて、ないの…?

 

 

 




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