長い永い・・『朧』が熔けて往く・・・。

ゆっくり、ゆっくりと。

だけど、それは決して悲しい事じゃない。

霞がかった幻想は消えて・・

やっと『現』が姿を顕す。



   


              『現』 と 『朧』 の 狭間




はぁはぁ・・・

気が付けば息を弾ませて駆け回っている自分がいた。

こんなにも懸命になったのは何時振りだろうか?

「・・気持ちイイ・・。」

「楽しそうだね。」

満身創痍・・。

だけど気分は高揚して・・痛みなんて麻痺して感覚など無かった。

あの幼子が此処までになったかと思えば変な感慨が沸く。自分も歳かな?なんて可笑しくなる。

空気を切る音、死角から狙って打ち込められるクナイの鈍い銀色。

より強大になったチャクラの気配。

右に切り返せば左。上かと思えば地から・・背後から。絶え間ない攻撃に迂闊には気が抜けない。

それなのに自分は・・この気分を抑える事が出来そうも無かった。

両腕で歯止めを掛ければ、悔しそうな声が漏れる。そして第二派がすぐに訪れる。

こちらも負けじと足を払えば、宙を舞い・・近くに幹を蹴り態勢を整えて刃向かってくる。

「参ったね。どうしてそんなにタフなんだか。ナルト〜、そんなんじゃ火影はまだまだなんじゃないか?」

「むきぃぃ〜・・!!ヒドイってばよ、イルカ先生!」

ハハハ・・と笑うと、ナルトの懐からスルリと抜け出る。

まるで戯れているかのように、ヒョイヒョイと交わす。

「でも・・強くなったな。」

「・・・・。」

「隙アリってな。」

ドスっと鈍い音がして正拳がナルトの腹に入ったが・・・どうやら咄嗟に分身と変わったらしい。

「オレってば、結構やるだろ!」

ニッと笑ってみせるナルトにやれやれ・・とイルカは肩を竦めた。















その勝負がついたのは意外な闖入者の所為だった。

イルカの足がナルトの拳がぶつかり・・交差しそうになった時だった。

二人の間に割って入った者がいたのだ。

「・・やれやれ面倒臭いなぁ〜・・テメエ等はよ。師が師だと弟子も弟子だな・・。」

ふてぶてしく現れたその男は、口に咥えた煙草を踏み消した。

「ア・・アスマ・・!?」

「・・しかまるんトコの先生。」

二人揃ってポカンとした表情を浮かべる。先ほどまでの殺気はいつの間にかに霧散していた。

しかし、この男も大概の度胸の持ち主なのだろう。

本気の殺気を放っている相手同士の間に何も気をわずに入り込みのだから・・。

「あ〜・・アスマ。知らないよ〜・・折角、いい心地でやってたのに。イルカが怒ってもね。」

こちらの様子に気が付き、カカシらも寄ってくる。

「本当にお前等は・・相変わらず、お遊びと本気の境界線が希薄だな・・。」

はぁぁ〜・・と溜息混じりの苦笑を浮かべる。久々に顔を合わせると言うのに何一つ変わらない

カカシやイルカの態度が笑えた。

「で、ナンの用な訳?」

「あぁ?!決まってるだろ・・テメェ等を迎えに来てやったんだ。有り難く思いやがれ。」

はぁ?っと顔を見合わせる二人にアスマは尚も言葉を重ねる。

「何処にいると思ってるんだ・・。こんなにもお前たちの存在を必要だと・・認めてくれてるガキがよ。」

そう言って、ぐぃっとナルトといつのまにか掴まえたサスケの首根っこを掴んで前に突き出してやる。

「・・・・。」

「休戦だ、休戦。・・里に帰ってゆっくり考えろや。時間はたっぷりある・・また厭になったら

 いつでも出て行けばいいんじゃねぇか?・・せめて、こいつらが一人前になる迄はよ。」

畳み掛けるかのように言葉を繋げば・・誰一人として言葉を発しなかった。

「・・サクラが・・・サクラが・・待ってるんだ。・・お前たちの帰りを。

 あいつはずっと。オレらが何もかも忘れてた時から・・忘れずに・・」

沈黙をやぶりサスケがぼそりと漏らした。

「イルカ先生、カカシ先生。・・オレ、やっぱ二人の事、大好きだってばよ!」

「お前達は・・本当に。」

馬鹿だなぁ・・て、言葉が掠れて聞こえた。

だけど、同じくらい自分らも馬鹿だと思う。

あれだけ煩いと思っていた存在にここまでもいつの間にか

心を囚われていたなんて・・・。

だけど、それは・・どうやらツマラナイ事でもなさそうだ。

コイツラならば・・きっと、当分の間は飽きさせないでくれるのだろう。

なら、それもいいかもしれないと思えた。




















「・・これを以って、春野サクラ中忍を今日より特別上忍師階級に定めます。」

柔らかい日差しの中・・サクラは歩いていく。

穏やかな日だ。

アカデミーの担当した生徒達の授業も今日で最後だ。

総ての子供達が下忍へと上がれる確率は低いが・・

一人でも多くの子供達が自分の夢に向かう第一歩を踏み出せれば良いと

心から願う。

いつものように職員室のドアをあければ・・・

「おはよう、サクラ。いや・・サクラ先生か。」

「ヤダなぁ、なんか恥ずかしい。・・・これから宜しくお願いします、イルカ先生。」

「はは。オレの方が言う台詞だよ。」

二人は肩を並べて廊下を歩いていく。ふと、イルカが足を止めて窓辺に近付く。

窓の外に広がる小春日和の日差しの中・・

これから下忍昇級試験を行なう上忍師の姿がちらほら・・と伺えた。

その中に、よく見知った顔を見つけた。

「イッルカせんせ〜!!おはようございますv」

力一杯に手を振って見せるその上忍の髪は、太陽の光を受けて

銀色に煌々と輝いていた・・。







       オレ達は何も変わらないけれど・・・こんな生き方も悪かない・・。

    霞みをかけて・・ぼんやりと本当の姿を欺いていた【朧】が・・
       
          今・・ゆっくりと【現】の姿を顕した。それでも尚・・信じてくれる存在がある・・。






 それでいいのだ。在のままに・・自由に・・何者にも囚われることなく・・彼等は在り続ける。

大切な人たいがソレを望んでいてくれる限り・・。

再び風が吹くまで・・仮の根を張ろう・・。






終わり。