疵 痕





初めて出遭った・・否、視掛けたのは

死神とか護廷十三隊とかオレには全然、関係無かった頃。



もっと・・・ずっと・・・前。




【 序章 】


・・始まりの兆し・・







はぁ〜・・と吐き出された息は白く浮かび上がり・・やがて闇の中へと熔けていった。

しくじったと思った。まさか、こんな怪我を負うなんて思ってもみなかった。

ぼんやりと霞む視界。これはマズいと思った。

せめて・・自分がこんな無力でなければ良かった。

己の霊力に見合った体格を以ってさえいれば良かったのにと思う。

その身にそぐわぬ強大な力は悪戯に持て余して・・要らぬ化物を誘き寄せる

恰好の撒餌としかならないのだ。

いつもならば、それでも体力が尽きる前にどうにか逃げ切れるというのに・・


「ツイてねぇ・・・。」

ぼそりと冬獅朗は零した。




気が付いた頃から大きな力を身に付けていた自分はよく化物に襲われた。

小さな身体にまして、死神でもない冬獅朗は逃げ切るか運が善ければ

蹴散らすかして、どうにか今まで切り抜けてこれていたのだ。

それなのに、今夜に限っては運がついてなかった。

前門の狼、後門の虎・・宜しくに二匹同時に襲い掛かってきたのだ。

それでも、どうにか二匹を蹴散らしたまでは良かった。

だが・・最後の最期で深手を負ってしまったのだ。

このままでは血の匂いと、弱った気配を嗅ぎつけて

また新たな化物が寄ってくるのは時間の問題だった。

冬獅朗はずるずる・・と重い身体を引き摺って、散乱した化物の躯から遠ざかろうと考えた。

此の侭、自分は野垂れ死ぬのだろうか?なんか呆気ないものなんだな・・と思う。

厭な寒さと、いつもの自分らしくない弱気を感じて少し情けなく思った。

だけど、そうすれば・・楽になるのだろうか?なんて考えがふと脳裏を過ぎる。

「いろいろと厄介なことを考えないで済むのかもしれねぇな。」

口に出して言ってしまえば、それはより確実な思考として刻まれた。

今の自分にはとくに後ろ髪の惹かれることもない。

強いて言えば・・腐れ縁となるあの少女だけだろう。だが・・あいつも自分なりの道を見出し

歩き始めるのは時間の問題だ。だったら、もう自分が見守る必要もないんじゃないか?と思う。

だったら・・この傷が元で消えようと構わないかもしれない。

ふっとらしくない思考が固まりだす。



どの位経ったのだろうか?不意に現れた気配に冬獅朗は気力は振り絞って身構える。

「チッ・・!来てみやがれ・・化物が。」

唇を噛み締めて生来の気の強さで毒づく。いつのまにか、先程まで感じていた

寒さも弱気も消えていた。どうやら、自分は土壇場ですら尚も足掻き続けるらしい。

何だか笑えてしまう。要らないと思ったものですら惜しくなるものなのだろうか?

「なんやァ〜、不穏な空気感じて来てみたんやけど・・坊だけみたいやな?」

スッと木々の合間から姿を顕したのは、すっとした死覇装を身に纏った細身の男だった。

その場の雰囲気とはそぐわない柔らかい口調。一瞬、拍子抜けしそうになった気配を張りなおす。

雲間から木々の合間から微かに射す月光に映えるかの様な銀糸が印象的だった。

− 死神・・?何でこんなトコに・・・?

ここは、人々の家が点在する集落からも大分離れた奥の森だ。

昼間ですら鬱蒼としていて、余り人も寄り付こうとしない。

死神すら殆ど見廻りにすらこない場所だ。それなのに、この男は姿を顕したのだ。

だから、死神だからと云え、そう易々と信用してたまるかと

再び張り直した冬獅朗の気配は緩むことはなかった。

男は細い瞳をより細めて辺りを繁々と見回す。

そして・・数メートル先の化物の亡骸に目を止めた。

「なんやあれ・・もしかして坊がやったん?」

ゆっくりと、訝しげに見上げていた冬獅朗に視線が移される。

警戒を解かずに剥き出しの殺気で見上げる冬獅朗を面白そうにみつめた。

「な、なんだよ!!」

身を屈めて近付いてくるその男に冬獅朗は身を一歩、自然と引いてしまった。

「坊、怪我してはる・・?血の匂いがするで、見せてみぃ。」

「お前には関係ないだろ。触んじゃねぇ!」

バシッと伸ばされた手を弾いて、冬獅朗はじりじり・・と後退する。

弾かれた手を見て、尚も男は笑みを深めた。

「なんや、まるで手負いの獣やな・・坊は。でもボク簡単に懐かん動物の方が好きやねんて。」

なんだ、こいつとばかりに睨み上げるがビクともしない相手に冬獅朗の方が気圧されて来る。

「・・大体、オレは坊じゃねぇ・・ちゃんと日番谷て、名前だ。」

「下の名前はあるん?」

男の薄い唇が笑みを象る。普通の相手であれば、ここまでの殺気を

漂わせていれば寄っても来ないというのに、

この男はあろうことか冬獅朗の逸らした視線まで降りてきたのだった。

「は?と、冬獅朗だよ・・。」

何を自分はベラベラ・・と見も知らずの人間に話しているのだろうか?とは

思いつつ何故だか、その男の笑みに有無を

言わせない圧迫感を感じていた。

「トウシロウくんやね。君な、ええから気緩めや。その侭やったら君、あかんで。」

「?」

ぐっと眉間の皺を深くした冬獅朗に迷わずに手を伸ばすと、

怪我を負っている左手を掴んだ。引こうとして身構えるのに、その手はビクともしない。

一体、この細身のどこにその力があるのだろう?

そんな事を考えている間にも、男は手際良く冬獅朗の袖を

捲り上げて傷口に目を見張る。

「こら、あかんわ。君は霊力が大きいねんな。だから、体力が減少すると、

その大きさに引き摺られんねんて・・せやから気緩めって言ってるん。

君だって、まだ消えたくないやろ・・」

底知れぬ寒さを感じさせた視線に正直に

冬獅朗は怖いと感じて、言葉を詰まらせた。

「・・・。」

「別に惜しくはねぇ。」

やっとの思いで開いた口は再びあの思考だった。

「ふ〜ん・・それもえぇかもしれんけど。けどなぁ・・そや、何なら要らないんやったら

ボクに預けへん?いいやろ・・惜しくはないんやろ?」

「はぁ?!何、訳分かんねぇ事言ってやがる。」

「いいやろ。ボクは君が気に入ったんや。そんで、いつか君がボクのこと追いかけて来て

見つけ出したら還すか考えるわ。」

「か・・勝手にしろ。」

もうどうにでもしやがれとばかりに投げやりに言えば、男は楽しそうに笑った。

そして自分よりも幾分も体温の低い白い指がそっと傷口に宛がわれた。

宛がわれた部分から徐々に痛みが和らいでいくのを感じた。

さっきまでの霞も退いていく。

冬獅朗は仕方無さそうに張っていた気を序々に緩めていく。

「ええ子や。それでえぇ・・。」





「粗方は治療施しておいたから、これで少し経てば大丈夫やと思うよ。」

「・・誰も助けろなんて・・言ってねぇだろ。たく・・余計な事を・・。」

ぼそぼそと呟いて、フイッとそっぽを向く冬獅朗の耳にクツクツ・・と笑い声が聴こえてくる。

「わ、笑うなよ!!」

「どうやら、大丈夫そうやね。消えんで善かったなァvあんまり無理せん事やな。・・」

男の言う通り、あのままの状態でいれば冬獅朗は確実に消えていただろう。

いくら秩序が保たれている地区だとは言え、一通りの少ないこの森であの深手だ。

冗談では済まなかっただろう。

「・・あんたのお陰で助かった。」

何だか癪だが仕方が無いと言った口調で視線を背ける。別に助かりたかった訳ではない。

だが、土壇場で少し惜しいと思ったのも事実で・・。

拾われてしまった命だ。仕方が無いが礼ぐらい述べておくべきだろうと思ったのだ。

「君、おかしな子やね。・・ボクは君の命の恩人やでvそんな怖い顔せんで。

さて、そろそろ行くで。坊・・トウシロウくんも早よ帰りや。」

クツクツ・・と楽しそうに男は笑っている。

「冬獅朗くん、言うな。名字で呼べよな!!」

「気ぃつけて帰りや、トウシロウくんv」

うんざりしたかの様に言ってくる冬獅朗にたいして、尚も笑みを絶やそうとはしない。

「名前・・。名前位教えろ。」

「そぉや、忘れてた。あ〜・・でも、君の命はボクが預かってんやから・・見つけ出してv

・・ちゃんと追っかけておいでや。君はボクのもんなんやからね。」

ひらひら・・と後ろ手で手を振ると、男は再び闇の中へ熔けていった。

「はぁ?!なんでオレが!!人の話聞けってんだ・・ったく。」

なんでこんな事になってしまったんだろう?と視線を左手に落とした。

巻かれた包帯の白さだけが妙に目に焼きついた気がした。

仄かにまだあの男の気配が残っているかのようだった。

どうやら自分はまだこの面倒臭い世界を往かなければならないらしい。

変な理由と借りが出来てしまったのだから・・。











それから・・少しして・・

あの男が護廷十三隊、五番隊副隊長 市丸ギンだったと知るのは

もう少し先の話だ。






序章 終了・・。








 BGM by【遠来未来】 遥 
                      〜はるか〜






なんて言うかなんでしょう・・・笑。
もういろんな事が面倒になってきていたひっつん。
それを永らえさしたのがギン。
そんな話を突発的に書きたくなったんです。
いろいろとおかしいのも、関西弁がオカシイのも
堪忍してぇ・・Uu
そして、これ基盤にしようと思ってた話と変わってしまいました・・Uuこんなんですが、宜しければお付き合い願いますv