【第一抄 傷 痕 】





いつもの業務を滞り無く終わらすと、日番谷は背凭れに任せて後ろに大きく伸びた。

「松本、そっちの方はどうだ?済みそうか・・?」

「あ、はい。これで最後です。後はもう今日分の業務は残ってませんよ。」

「そうか・・。」

机の上に拡がった書類や資料に手を伸ばすと、粗方ではあるが纏めおく。

「隊長、先に戻られて結構ですよ。あたしも、もうすぐ終わりにしますから。」

「だが・・」

「偶には早く戻ってください。みんな心配してますよ、いつか倒れんじゃないかって・・。」

そんなヤワじゃない。と呟くが、ここは大人しく言葉に甘えるかと思う。

「お前も早く帰るんだぞ。いいな、隊長命令だからな!」

「はい。」

その言葉に、どことなく可笑しそうに乱菊は笑むと頷いてみせた。










「これは奇遇ですなァ、十番隊隊長はん。こんな夜半にお一人ですか?」

少し前から感じていた気配は濃さを増し、気が付けばすぐ隣りにあった。

「・・・・市丸。」

回廊の冷たさが足の裏からひんやりと伝い昇ってくる。

蒼白い月に照らされた回廊に市丸の姿は浮き上がって見える。

「物騒やな、お付の人、一人付けんと・・こんな夜遅うに一人で出歩くなんて危ないで〜。」

「お前には関係ないだろ。」

「ホンマにつれないお人やわ〜。」

いつのまにかにギンは日番谷の左手を取り、頬を寄せた。

「放せ!!」

ぐっとその手を引けども、びくともしない。一体、この細い身体のどこに

その様な力があるのだろうかと要らぬ疑問が沸き起こる。

市丸は表情を一つ変えずにいつもの笑みを口元にたたえている。

「ほんま暖かい手ぇ〜してはるなァ。僕とは偉い違いやな。」

確かに触れている市丸の手は日番谷よりも幾分か冷たかった。

「いい加減、放せ。」

「厭や。・・と言うたら?」

スゥ〜・・と眇められた視線。が、それは確実に日番谷を囚えている。

ぎりり・・と強く噛まれる唇に、眉間に皺が一段と深くなる。しかし、その瞳は決して逸らされることがない。

「えぇ瞳してはるなァ・・。」

日番谷の手が氷輪丸の柄に掛かるのと、同時に市丸の手が退かれた。

「一体、何なんだ・・てめぇはよ!」

「ややなぁ、そない怖い顔しぃへんでv僕はただ仲良うしたいだけや。」

「オレはごめんだ。」

極力、会話を断ち少しでも早くこの場を離れたかった。

こいつと二人になるのはごめんだ。この雰囲気が苦手だ。

「左手の傷、痕残ってしもうたんやね。綺麗な肌なのに勿体ないわぁ。」

キッと睨み上げる日番谷に、楽しそうに市丸は笑う。

「忘れてると思うたん?忘れる訳無いやろ、二人だけの思い出なんやからv」

クツクツ・・と笑う市丸にここでこいつのペースに飲み込まれては堪らない。

こいつの読めない雰囲気が苦手だ。

なにもかもハッキリしないで、煙に巻かれた様な、狐に摘ままれたような

そんな状態が好きじゃねぇ。

モヤモヤする感情は胸ん中で拡がって気持ち悪いったら仕方ない。

だから、こいつとはあんまり長く接したくないというのに。

「オレはそんな事忘れた。」

「うっわ、殺生な事いわはる。」

それなのに、再び後ろ手に左手を掴まれる。

抵抗しようにも空いた手でしっかりと押さえ込まれて身動きするとれない。

「放っせ・・っ」

すいっと死覇装の袖を捲くられて出てきた古い傷痕をじっと市丸は見詰ると、

そこに口接けた。

「これだけが十番隊長はんとボクを繋いでる印やねんな。忘れんといてな。」

ぱっと振り払うと、意とも容易く手は放された。

「オレはすぐにでも忘れる・・。」

そう一言残して、日番谷は市丸の横を通り過ぎて行く。





「君は忘れることなんか出来ひんよ、トオシロウくん。」




一人、回廊に残された佇む市丸の口元の笑みがすぅ〜・・と消えていく。

「君の命を拾うたのは、このボクなんやから・・・。」

はやく追ってきてや。

そして・・

見つけ出して・・

捕まえてや。



だけど


そん時、本当に囚われてるのは



どっちやと思います?






日番谷はん。











 BGM by【遠来未来】 遥 
                      〜はるか〜






うわ・・・Uu
また可笑しな話になってしまいました。
だけど、どかどかと続けていくつもりなんで
宜しくお願いします。
決めた終章の形が変わってしまったので
どう纏めるべきか凄く困ってます・・(^^;