【第二抄 陽 炎 】
「あたし、本当にびっくりしたんだからね〜。だって、シロちゃん『誰が死神の学校なんて
入るか!!』て言ってたでしょ。それなのに、まさかねぇ・・」
何時になったら馴れてくれるのか?物珍しそうに人の事を頭のてっぺんから爪先までを、
先程から何度も見返しながら雛森が感心したかの様に呟く。
大体、雛森と二人になると・・昔の話とやらが出てくる。
そうすると、決まって雛森はこの話題を持ち出してくる。
いい加減、文句を言うのも疲れたのか、好きな様に日番谷はさせていた。
「煩ぇ〜なぁ。大体・・お前さぁ、自分が言ったんだろ・・」
「あ、そっか・・シロちゃんじゃなくって日番谷くんだね。気が抜けるとダメだよねぇ〜。」
あははvと笑う、雛森に日番谷ははぁ〜・・と溜息をついて項垂れた。
「でも、ほんと凄いね!まさか隊長格にいきなり抜擢されるなんて、そうある事じゃないもん。
今じゃ、立派に十番隊の隊長格だもんね。」
まるで自分の事であるかの様に喜ぶ雛森の姿を見ていると、
自然と自分の頬が緩むのを感じた。彼女は自然と周りにいるものすらも暖かい気持ちに
させてくれる何かを持っているのだと思う。
「ま、お前も寝ションベン桃じゃなくなって、良かったなぁ・・痛って!!」
言い終わるが同時に雛森の拳が日番谷の頭のてっぺんに振り下ろされた。
「痛ってぇ〜なぁ!!」
「一言多いのよね、いっつもシロちゃんは。」
「だから、シロちゃんはやめろって言ってんだろ。いつになったら、その癖抜けるんだよお前は!」
そんなほのぼのとした情景を乱菊と吉良は向かいの回廊から穏やかな眼差しで見ていた。
「いいわねぇ、あの二人。見てるこっちが笑顔になるわね。」
「えぇ、やっぱり幼馴染ですからね。仲は良いんでしょう。」
ここ最近の寒さが嘘だったかのように暖かい小春日和な日差しが降り注ぐ。
「あら、幼馴染だからって全部が全部あぁなるとは限らないわよ。だって、
あたしとギンだったら、あんなふうにはならないわよ。」
髪を掻き揚げる仕草をすると、クスリ・・と笑う。
「確かに・・あ、いや、・・えぇ〜と。
すみません、やっぱりフォローする言葉が見つかりません。
想像つきませんよ、ウチの隊長と乱菊さんは戯れてるなんて・・想像するだけで・・・」
そう言って視線を逸らす吉良に乱菊は腕を組むと、
「ちょっと、それ余りにも失礼じゃないの?」
と笑った。
「でもね、今はあんなのだけど、可愛いトコだってあったのよ。」
「へぇ・・本当ですか?」
「あれは・・まだギンが副隊長だった頃かしら・・・」
昔の古ぼけた記憶を手繰り返すかの様に、乱菊は視線を上空に走らせた・・・。
「一度だけ・・だったけど、ふらり・・と遅い任務の帰りにバッタリとギンと
瀞霊廷の官舎前で会った事があってね・・その時に妙に嬉しそうにアイツが言った事があったのよ。」
『乱菊、聞いてや!ボクな、とってもイイもん見つけたんや♪
・・きっとアレは、大きく化けはるでv』
今まで見たこともない様な楽しそうな表情して・・はしゃいでいた。と乱菊は語る。
結局、【アレ】というのが何を指しているかを
教えてくれることはしなかったが、あの時の・・あの表情は酷く印象的で
濃く記憶に焼きついていると言う。
「ほんと・・一体なんの事だったのかしらね?あんなに楽しそうに笑うギンなんて
最初で最後だったかもしれないけど、可愛いかったわよ。」
意とも容易くあっさりと、自分の隊長を昔は可愛かったと(あくまでも過去形だが・・)
言ってのけてしまった乱菊に吉良は苦笑を浮かべる。
「嫌やなぁ・・今も充分、可愛いと思うねんけど、意地悪さんやなぁ・・乱菊は。」
「ギン?!」
「隊長?!」
唐突に乱菊と吉良の間に割って現れた市丸の姿に驚いた風に
二人は、ひょいっと一歩だけ後退した。
「なんや〜・・二人してボクを除けもんにしてからに。」
除け者て・・・と言う言葉を二人は飲み込むと、あ!と思い出したとばかりに急いで
市丸の視界の前に立ち塞がった。
それもその筈だ。まだ、この背の先には日番谷と雛森の姿があるのだから・・。
これが目に入れば、この男のことだ。ちょっかいを掛けにいかない筈がない。
これ以上のゴタゴタも迷惑ごとも御免だ。
なるべくならば避けて通りたいと思った思考からきた動きだったのだが・・・。
「ナニ?二人して・・そんなとこに立ちはだかってん??ボクも言うのもナンやけど・・
二人ともそこそこ高さがあるんやから・・うっとおしいで。退きや。」
「や、あ・・でも」「ちょ・・ちょっと」二人の止める声も無視して市丸はぐいっと
強引に二人を除かせた。
「・・なんや相変わらず仲えぇなぁ・・あのお二人さんは。」
このままで済むはずもないのに・・市丸はそう一言だけ言うと
「イズル、ついてき。ちょっと手伝って貰いたい仕事があんねん。」
踵を返すと、後ろ手にヒラヒラ・・と手を振った。
「は、はい。」
「ほなね、乱菊v」
市丸に後を追う吉良がぺこりと頭を下げるのに、乱菊は手を上げて応えると
「珍しいこともあるのね・・。」
と漏らした。
* * * * * * * * * * *
「アレは、ホンマに大きく化けはったで。
・・・今じゃ、ボクの喉元にいつでも切先を宛がえるほどに。」
「え・・・?」
前を歩く市丸が振り返らずに呟いた。
「なぁ、イズル・・。誰かに追われるって・・とてもイイ心地やと思わへん?
ずっと、ずっと・・・その人ん中でボクの存在が燻っているんや。
陽炎みたいにゆらゆら・・ゆらゆ〜らと・・。すっごくえぇと思わへん?」
斜め後ろからの角度で見た吉良の視界には
しっかりと、その時の市丸の表情の変化が見て取れた。
クィ・・っと上がった片方の口角。
眇められた瞳。
そして・・再び満足気に呟かれた。
「とっても、えぇ・・気分や。」
ゆらゆら、ゆらゆら・・・と、その影は炎に炙られたかのように揺らめき続ける。
決して、離れることも消えることなく。
* * * * * * * * * * *
「そ〜いえばさ、日番谷くんが前に言ってた取り返さないと
イケナイものがあるって・・何の事だったの?」
自分の官舎へと戻ろうとしかけた際に、思い出したかの様に雛森が振り返った。
「それは・・誰から?」
余計な事をしっかりと覚えている。大きな瞳が不思議そうに訊ねてくる。
「それは・・何?」
口が開きかけて、また閉じる。
「あのとき・・・怪我して・・
「雛森!!」
雛森の語尾と重なるように声が出た。その大きさにキョトンと驚いた表情を向けてくる。
「あんま、懐古話ばっかりしてるとな・・年取るの早いぜ。すぐに桃ばぁちゃんだな。」
ニィッと笑えば、怒ったかの様な表情をすぐに面にだす。
「ひっどいよ〜、何それ!」
「何だよ、本当に事言って注意してやっただけだろうが〜」
ドタバタばた・・と賑やかな?騒々しい足音が響き渡る。その様子を他の死神たちは
どうしたものかと、穏やかな視線で見つめる。
燻り始めた陽炎は・・いつか、その身を焦がすのだろうか?
<終わり>
うわ・・・Uu また可笑しな話になってしまいました。 だけど、どかどかと続けていくつもりなんで 宜しくお願いします。 決めた終章の形が変わってしまったので どう纏めるべきか凄く困ってます・・(^^; |