その都は白闇を内包しながら眠り続ける・・
   
       刻が充るその時まで眠り続ける・・・

       息を潜め、胎動を感じながら・・静寂に包まれる。





         その都は目醒めない・・・

        主の還りを待ちながら・・眠り続ける。





            ほら、ごらん・・そこは名を持たぬモノの都

            ほら、ごらん・・そこは個を持たぬモノの都






        「内包された白い闇に・・君も包まれてしまうんやろか・・?」




                 


                 






  ちらちらと・・風に揺られてチラツク蝋燭の灯が、時折その場にいる人物の表情を浮かび上げる。

長い沈黙の後、深い溜息が吐き出される。かさり・・と達筆な流れる様な文字で綴られた書状が

書院造りの棚に置かれた。

その一挙一動を見逃すものかとでもばかりに日番谷冬獅朗はじっと相手を見据えていた。

「・・・已む得ない。本来ならば・・・まだ正式辞令の前であり、主にこの様な事をさせるべきでは

 ないのだが・・最少人数で抑えたいのも事実。致し方ない。」

長い前置きを述べると、山本は日番谷に己の署名を記した新たな書状を手渡した。

「緊急戦闘時医療班特例題参拾八条に基づき・・日番谷冬獅朗カ官席候補生を特殊任務に着く事を
  
 承諾する。総ての指示はあの男に習え・・解っておるとは思うが他言無用。御法度じゃぞ。」

「御意。」

短く返事を返すと日番谷は後方の暗闇の中へと溶け込むように消えていった。







      



 
 なぜ自分がこんな異例な任務に付くことになったのか・・。

それは総てある人物に頼まれた【拾いモノ】の所為だ。

この話は、日番谷が隊長職の辞令が下る少し以前。だが、内々には決定事項とされていた頃のことだ。

「御主もそのうちにこの世界の深さを知る事になるじゃろう・・。」

総てはこの山本の一言が原因だったのかもしれない。

隊長職につく前に前線の様子や戦闘態勢の隊とはどういうものかというのを勉強するべきだと

言う意味で、日番谷は護廷十三番隊、第十二番隊浦原喜助の下に預けられたのだった。

ここで日番谷は予想もしていなかった【拾いモノ】を託される事になったのだ。


いつもの様に見回り任務で二人一組になっていた処、二手に別れたのが失敗だったのかもしれない。

日番谷は水の音に誘われて川縁へと足を進めていったのだった。

そこで目にしたのは・・・

ボロボロ・・の人形の様に岩場に引っ掛かっていた人の姿だった。

「っ?!おい、大丈夫か!!」

慌てて川の中へと足を進めて駆け寄ると、浅いが確かに息がある。

装束から見て死神である事は間違いない。ただ少しだけ、一般の死神と違うような気がしたが

そんな事には構ってはられなかった。







「それで、坊一人で頑張って此処まで連れて来たのじゃな。」

「て、ことらしいですよ。ま、お疲れサンでしたねv」

パサリ・・と日番谷に浦原は乾いた布を被せてやる。言葉は柔らかいが、微妙に雰囲気が

いつもと違和を感じるのは何故だろう。

タイミングが良かったのか、悪いのかは分からないが、

隠密機動総司令官・同第一分隊「刑軍」総括軍団長の肩書きを持つ四楓院夜一がこのベースに

顔を見せていたのだった。

二人は暫らく沈黙するが、お互いに顔を見合わせると頷いた。

「仕方あるまい。」

「仕方ないっすよね。」

何が仕方ないのか、置いて行かれた形の日番谷は自己の思考を巡らせていた。

すると、突然浦原がその視界に入ってきたのだった。

「な、何だよ・・?」

「日番谷さん、ちょっと頼みたい事があるんですよ。」

「うむ・・御主が一番妥当だな。顔も名もまだ割れてはいるまい。」

「???」

訝しげに見上げてくる日番谷に浦原は表情を和らげた。

「そんなお怖い顔しないで下さいよ。・・実はですね、この人。ちょっとしたアタシの友人でしてね・・」


二人の話を総合すると、要はこの意識の無い死神を誰にも(もちろん仲間の死神にもだ。)

見つかる事なく山本総隊長の下まで書状と共に運べとの事だ。

「・・本気で言ってるのか?誰にも見つからずって・・・一体、コイツはナンナンだ?」

「市丸ギン。・・アタシの無二の友人ですよv」

クイッと口角がつり上がる。その表情を見て日番谷は納得した。

―これ以上立入るな。―という無言の威圧。

「あとは、山本総隊長にお聞きになられると善いでしょう。気を付けて・・お願いしましたよ。」

「あぁ・・。」

木立の中へ消えて行くその背中を見詰めながら浦原は、キリッと強く唇を噛み締めた。






    続く。