『祈りなさい・・。祈りは届くものだから・・』

『本当の願いって・・必ず届くんだから・・』

今まで・・何回も聞かされた言葉・・。

だけど・・もう無理だよ。


『お願いです・・。信じて、オレはずっとアナタの傍にいます。』

蘇える呟きに・・・涙が流れた。
何回も寝返りを打ち・・とうとう目を開いた。

どうにか眠ろうと努力はしたものの・・寝付けない。

もう・・暗部は動いたのだろうか。

確定されてしまう・・。

いくら自分が受け入れられない事実だとしても・・

他人の手によって・・。

もうアノ人がオレの目の前に帰って来ることは・・なくなる。

ならば・・いっそ・・。















手に二羽の『折鶴』を大切そうに持ち上げた。

悩み抜いた末・・『銀』で折りあげた鶴。

アノ人の髪のいろ・・。

キラキラ・・と光をうけて、昼の日の光に下・・夜の月の光の下で・・

輝いていた色。

それとは別にもう一羽・・。

『濃い青』で折られた鶴・・。

その二羽の『折鶴』を見つめて・・優しく微笑んだ。

久しぶりに笑った気がした・・。

あんなに嫌いだったのに・・。

『折鶴』を折ること。

だけど・・今はとても穏やかな気分だ。



 ・・・そうだな・・最期の願いくらいは・・叶うよな。・・・









二羽の『折鶴』を抱えて庭へと出る縁側へ・・近づく。

「・・・雪・・。」

気がつけば・・雨は雪へと姿を変えていた。

「あ・・・。」

小さく声を上げた。

まるでそれは庭先の『淡雪』を迎えにでも来たようだった。

そっと窓を押し開けて、外へと歩み出る。

降りたての雪は・・小さな音をたてて、跡を残した。

「お前もやっと・・逢えるみたいだね。」

その『淡雪』の前に屈むと、

そっと積もり始めた雪を払おうと手を伸ばした。


「え・・・。」


息が詰まった・・。

『淡雪』から雪をどけてやると・・

その下から姿を現わした『淡雪』のその姿に・・


  ・・・白い小さな5花弁の花・・・


『いつかイルカ先生にも見せてあげますからねv』

楽しそうに笑うアノ人の姿が・・声が・・。

確かに植えたときは薄青色の花を咲かせていたのに・・

今は・・・。

アノ人が好きだと言った『白い淡雪』が花を咲かせている。

「ははは・・な、なんで。」

どうしようもなくその場に座り込む。

なんで今頃になって咲くんだ・・。

身体の底から込み上げてくる感情を抑えきれずに泣き伏せる。

その上に・・後から後から雪が降り続く・・。









冷え切ってしまった手を一生懸命に伸ばすと・・

その横に二羽の『折鶴』を添えてやる・・。

これでいい・・。

これで・・オレはアノ人のもとへと行ける・・。

きっと・・怒られるかもしれないけど・・。

これでいいんだ・・・。

そして・・その場に音もなく倒れた・・。

夕食に服用した薬は・・遅効性。

そろそろ・・効いてきたらしい。

霞む視界でもう一回だけ・・

   ・・・  『淡雪』  と  『折鶴』 ・・・ 

を見つめた。

柔らかく・・幸せそうに微笑んだ。















「イルカ先生!!」

力が入らず・・重たい目蓋を押し開ける。

ぼやける視界に・・心配そうなアノ人の顔・・。

あぁ・・やっと逢えた。

再び瞳を閉じようとすると、それを止められる。

「解毒剤です。飲んでください!!」

「う・・」

無理やりに口をこじ開けられて流し込まれた苦味を感じる液体。

思わず噎せ返り・・げほげほ・・と。

「げほげほ・・はぁはぁ・・」

苦しくって仕方がなかった・・。

・・まだ生きてるのか・・?

「イルカ先生・・良かった。」

自分が理解するよりも早く相手に強く抱きしめられた・・。

悴んだ身体を温めるかのように包まれる。

「ど・・どうして・・」

上手く話すことが出来ない。

今、自分に起きていることが分からない・・。

「・・とても驚きました。やっとの思いで里に帰り・・

 その足で誰よりも早くアナタに逢いたくって

 来て見れば・・ここでアナタが倒れていた。様子からみて毒を服用したのだと

 すぐにわかりました。なんで・・こんなことを・・」

未だぼぉ〜っとする頭と視界でも分かるぐらい

混乱していて・・今にも泣き出しそうな

アナタの顔・・。

なんだか・・とても安心して微笑んだ。

力の入らない手を持ち上げてその顔に触れた・・。

「・・どうしても・・アナタに・・逢いた・・かったから・・です。」

途切れ途切れに紡ぐ言葉・・。

上手く聞こえただろうか?

カカシ先生の声が震えている。

「バカですよ・・アンタ。」

「ですね・・。」

くすり・・と笑うと唇が重ねられる。

ゆっくり・・ゆっくりと・・深くなる口接け・・。

相手の唇の温かかさに・・

伝わる鼓動に・・

あぁ・・良かった。

とだけ素直に思った。

どうやら・・最期の願いは叶ったらしい。

信じ続ける・・強さ。

思い続けられる強さ・・。

その強さが強い人ほど・・その祈りは届くのだろう。

「この『折鶴』を添えるのは・・まだ早いですよ。

 イルカ先生の中で少しでも・・『淡雪』の印象は変わりましたか?」

こつん・・と額を合わされれて見つめられる。

「・・・『祈り』は届きましたよ。オレのとこまで・・。」

やさしく呟かれるその言葉がくすぐったい・・。

「オレの祈りは届きましたか・・」

答えられずにいるオレに対して・・何回も口接けしながら尋ねてくる。

あなたが傍にいる・・。その実感だけで充分なのに・・。

あなたの言葉は温かい。

「・・今やっと、届きました。」

「よかった・・。」




      白い小さな小さな5花弁の花・・

     『淡雪』・・その香とともに・・祈りも届けておくれ・・。

     遠く離れたあの人がオレのもとへと帰ってくるように・・。

     オレと共に祈ってくれ・・。







                     終わり。


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