本当に添えることになるの・・?
もう涙も枯れてしまったのだろうか?
何も映さない心は・・思い出の中を彷徨う・・。
あの後・・数人が尋ねてきては・・『淡雪』に『折鶴』を添えさせてくれを
言ってきた・・。
だけど・・オレはそんな気になれず、悪いとは思いつつも断り続けていた。
・・だって・・それはあなたの死を肯定してしまうから・・。
あれから・・もう1年という歳月が経ってしまったというのがまるで嘘のよう。
ある日・・三代目に呼び出された・・。
「イルカよ・・。」
静かに話し出す三代目・・。その気配はオレを包み込むように向けられている。
あぁ・・火影様にまで心配させてしまった・・。
「はい・・。」
できるだけしっかりとした口調を選び、オレは大丈夫・・と言い聞かせる。
火影様に・・。
そして・・オレ自身に・・・。
「カカシが消息を断ってから・・1年の歳月が経過した・・。本来ならば半年を過ぎた
時点で・・捜索は打ち切られ・・あとは暗部へと受け継がれる・・。」
暗部へ受け継がれる・・それは死体処理班の出動を意味する・・。
もうその時点でその人物は死んだとされるのだ・・。
里の為に英雄となったのか・・それとも里を捨てた抜け忍になったとしても・・。
「それをお前の、たっての希望として・・1年待った。
すまぬがもう・・期限じゃ・・。」
言い難そうに・・なんとか言葉にされたその音を感じ取る。
このお方にとってだって・・・アノ人は大切な存在なのだ。
孫のように・・身をあんじて来たのだろう・・。
拳に力を込めて・・唇を噛み締める・・。
どうか・・この時だけ・・・感情よ、消えてくれ・・。
力を込めすぎて白くなった指先が掌に赤い爪跡を残す・・・。
震える声を抑えて、歪みそうな顔を頑なに塞き止める。
・・・一切の感情を消し払う・・
まるで任務を淡々・・とこなす道具としての忍のように・・。
そしてやっと・・応えを返せる。
「・・暗部への移行お願い致します・・。」
それは何の感情も篭ってはいない声・・。
だけど、しっかりと・・明確にその言葉の持つ意味を伝えた・・。
「うむ・・。」
俯き加減に短く答えられた声・・。
火影様は笠を触ると深めに被り直す・・。
笠の落とした影でその表情は読み取れない。
「イルカよ・・ご苦労であった・・。」
「・・御前失礼致します・・。」
形式状での会話・・
それが・・今の自分たち・・いや、オレには精一杯だった・・。
「・・・雨?」
ふっと・・外に目を遣る・・。
先ほどまで何とか持ちこたえていた曇り空は、
とうとう・・耐え切れずに泣き出した。
まるでオレみたいだ・・。
何気なく窓辺に立つ・・。
窓硝子に、そっと・・手を添えれば外気の冷たさが曇った硝子を通して伝わってくる。
サ〜・・サ〜・・と雨は悲しくなるまでに優しく降っている。
もっと強く降ってくれればいいのに・・何もかも流してしまうくらい強く・・。
現金なもので・・こんな状況に陥っても腹が減る・・。
仕方なく・・もそもそと動き出す。
オレの生きている意味って・・なんだろう。
本当の願いって・・何・・。
いつだか・・昔付き合った彼女が言ってた。
『本当の願いは必ず届くんだから・・。強い思い程伝わるのよ・・。』
優しく微笑んだ彼女・・。
前からあまり・・願いが叶うとは信じていなかったオレにそう語った。
『じゃぁ・・何故、あの時?』
いつもなら受け流せるのに・・
その時はつい反論してしまった。
彼女は少しだけ淋しそうな顔をして・・呟いた。
『きっと・・あなたの思いよりも御両親の・・アナタを・・里を・・守りたい
という思いの方が強かったのね・・。ごめんなさい・・上手く伝えて上げられなくって・・』
もうあまり覚えてはいないけれど・・その時の会話は鮮やかに今でも覚えている。
彼女の淋しそうな・・悲しそうな・・笑顔。
小さく呟かれた・・。
『ごめんなさい・・。力不足で。
あなたの心を・・祈りを・・解き放てなくって・・。』
その時は何を言われたかが分からなかったけど・・
今なら少し分かるかもしれない。
一人で食う飯は美味くもなんともない・・。
ただ吸収しているだけ・・生きる為に。
・・またオレは一人になってしまう。
「うっ・・ううぅ・・」
枯れたと思っていた涙が再び溢れ出す・・。
今夜には・・暗部が動き出す・・。
そうだ・・『折鶴』を折らなければ・・
あの人の好きな色は何色・・。
『薄青』・・『銀』・・それとも『白』・・。
これを折り終えたら・・自分の分も折っていいだろうか・・?
なんて・・思う。
最期の願いは・・・・
・・・『あなたと共にあること・・・。』・・・
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