本当に・・この小さな花は・・

届けてくれるのだろうか・・?

もう一度・・祈ってもいいのだろうか・・

お願いだ・・・

届けてくれあの人のもとに・・
あの人が帰るはずの予定・・は、とおに1週間は過ぎていた。

なんで・・?帰らないの・・。

嫌な記憶が蘇える‥。

庭先の『淡雪』は相変わらず、その小さな花を風に揺らしていた。




『嫌だ!!行かないで・・!』



小さなその胸に飲み込んだ決して伝えてはいけない思い・・。




それは・・二人を困らせるだけだから・・。

手放したくない・・優しく抱きしめられた温もり・・。

『母さんたちの為に・・咲かせてくれるかしら?』

一瞬・・曇るその表情・・。

・・・だけどすぐに立ち消える。

優しく伸ばされたその手から受け取った花の苗・・。

『イルカ・・。大丈夫だよ。』

今にも泣き出しそうなその顔を父さんに頭を小突かれて、

どうにか笑顔を作る・・。

『うん・・。オレ、待ってるから母さんたちが好きなこの花と・・』

精一杯の強がりと笑顔・・。

力になれない自分のせめてもの協力・・。

祈りは強いものだから・・必ずとどくものだから・・。

風に乗り、その匂いとともに・・届けておくれ・・『淡雪』よ‥。






ス・・と頬を一筋の涙が伝う・・。

うたた寝・・をしてしまったことに気がつく。

頭が重い・・どんな夢を見ていたのかは覚えてはいない・・

だけど・・無償に淋しいって思いが残っていた。

この頃、きちんと寝た試しがないのだから仕方ないかと・・溜め息をつく。

時計に目をやれば・・・

「しまった!!」

慌てて家を飛び出す・・。今日はアカデミーへの出勤はない変わりに

午後から受付業務だけ任されていたことを思い出す・・。

はぁはぁ・・と息を弾ませながら、何とか受付のある建物の中へと走り込んだ。

気が抜けているなぁ・・と思いながら、いかんいかん!と頭を振る。

気を引き締め直して・・部屋の居る愚痴に手を掛けた。

がらり・・

途端に一斉に視線が自分に注がれる。

そんなに遅れたか?

と思いながら・・も申し訳なさそうな笑顔を浮かべる。

「すみません・・。少しうっかりしていて・・」

「いや・・それはいいんだけど。」

いつも隣りに座り、一緒に仕事をしている彼が言葉を濁す。

視線があちら、こちら・・へと泳ぐ。

   あ・・知っているこういう人の様子を・・。

もっとずっと幼いころに・・。

そう・・とても何やら言い難そうに・・話しだすんだ。

   あ・・嫌だな。なんか嫌な気配だ・・。

その先は聞くな!という身体からの警告を無視して

「どうしたのですか・・?」と話を促せる。

話しかけるタイミングを見計られておずおず・・と話されるのは

それまでの間が息苦しいから・・。

充分に落ち着きを払い・・いつもの様子を装いながら・・。


   もしかしたら・・知っていたのかもしれない・・。


相手が話しだすと・・すぐにその声はオレの耳には入って来なくなった。

近くにいる他の人たちの声ですら・・

まるで遠巻きに眺めている景色のように

何も聴こえない・・。

自分がそこにいるのかさえも・・怪しくなるほどに・・。

まるだ・・傍観者だ。

だけど・・それは曲げようのない事実で・・

オレはソレをココで聞かされているんだ。



『・・・はたけ上忍の連絡が途絶えたそうです・・。』



だから・・『淡雪』は苦手なんだ・・。

みんな持っていっちまう・・。

薄青色した・・可憐ないざよい花・・。

オレは・・一体どうやって帰ったのか?覚えがない・・。

ただ・・また、あの時と同じように・・ぼぉ〜と天井を眺めている。

だけど・・あの時に感じられた・・

あの気配は・・・ない。

「・・ふぅえ・・ふ・・ひっく・・。カ・・カカシ・・せんせ・・」

後から後から・・止まることなく流れ落ちるそれは・・ポタポタ・・と音をたてて

手の上を弾けて、布団に染みを残した。








窓の外には・・薄青色をした『淡雪』が揺れていた。
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