小さな小さな花が揺れている・・。
5花弁の小さな花・・。
その名前は・・・
『淡雪』
アノ人が任務に出てからもう一月が経とうとしていた・・。
オレの傍らにいると言っていたアノ人。
「・・嘘つき。」
擦れた声が喉を通りなんとか音となる。
あれからオレは火影様から休養をとるよう
にと言い渡されてアカデミーにも行っていない。
だから余計に考えてしまうのだ。
仕事さえしていれば・・何も考えずに済むのにと溜め息を吐き出す。
そして・・庭先に目をやれば薄青色の花をつけた『淡雪』が揺れている。
いつかあの人が見せると言っていた花の色とは少し違う。
コンコン・・
夜更けに叩かれた音に跳ね起きて寝床を飛び出す。
それはあの人がこの里を後にして3日経った時だった。
まさかと思い近づく・・。
が・・しかし風の気紛れだったらしい。
ドアを開けるがそこに探す人物の姿はない。
「バカだな・・オレ。」
再びドアを閉めようとすると一羽の鳥が迷い込んできた。
すぐに気がついた。
それがただの鳥ではないことに・・。
わずかにその鳥が纏っているチャクラには覚えがあった・・。
そう、カカシ先生の式だ。
鳥は愛らしくオレの掌の上に乗ると、しゅるり・・とその姿を
小さな種に変えた。
『淡雪』の種・・。
これを植えて待てとでも言うのだろうか?
『淡雪』を植えるのは苦手だった。
それにいつ『折鶴』を添えなければならないかもしれないから・・。
確かに香りと共に祈りを届けるかもしれないけれど・・
それは紙一重なのだ。
『英雄』の誕生を示すことと・・・。
昔から苦手だったんじゃない・・。
オレだって里の人間だから、『淡雪』は好きだ・・だけど。
12年前のあの日・・初めて本気で祈った。
だけど・・その香りは届かなかった。
やがて・・二つの『淡雪』に赤と青の『折鶴』が添えられた。
二人の好んだ色・・。
あの頃・・この里のどこででも見ることのできた風景・・。
薄青色した『淡雪』にそっと寄り添うように添えられた色とりどり・・の『折鶴』
悲しみに包まれたモノクロの風景を色づけた『折鶴』。
いまでも覚えている・・あの『折鶴』の鮮やかな色を・・。
たった今までの騒々しさがまるで幻だったかのような
静けさに包まれた里に唯一残された色は
『折鶴』の色彩に・・中天から見下ろす月だけだった・・。
一体・・アナタは何時になったら帰ってきてくれるのですか?
どうか・・
オレに『折鶴』を添えさせないで下さい・・。
二度と添えたくないんです。誰の為にも・・もう・・。
熱の所為だったからだろうか・・?
あの晩のイルカ先生は酷く弱気で・・まるで何かに怯える子供のようだった。
震えるか細い声がやっと紡いだその言葉・・。
「一人にしないで・・。」
今でも耳に残っている。
許されることならば,ず・・と傍に寄り添っていたかった。
せめてアノ人がオレのことを思ってくれるように・・。
・・・苦手に思っていることも知っていたけれど・・
式に『淡雪』の種を運ばせた・・。
アノ人がオレの為に祈ってくれることを願い。
せめて・・アノ人の中に揺れている『淡雪』の記憶を塗り替えれれば・・なんて
大丈夫・・その『淡雪』にはオレの思いを込めておきましたから・・。
ふと空を見上げると月がぼんやりと浮かんでいる。
その気の抜けた様を見て苦笑する。・・まるでオレみたいだと・・。
もうすぐ帰りますから・・待っていて下さいね。
祈っていて下さい・・。
オレの帰りを・・。