木の葉のように
緩やかに・・
その人が愛していたのは・・あの幼い子でもなければ・・オレでもなかった。

だからと言って・・自分自身でもなかった。





   あの人が愛していたのは・・<この里>自体だった。





それはいつの事だったんだろうか?もう埋もれてしまった、記憶。

だけど、それを思い出そうとすれば感じる痛みは鮮やかで・・褪せることは無い。

いつだって、彼は人らしく人っぽい豊かな表情や感情を持ち合わせてて・・

見るモノに可笑しな位の安心感と懐かしさを与えていた。

ほんと・・誰もが、知ってる・・典型的な先生。

一緒に笑って、共に泣いて・・時には相手の為に怒った。

ほんと、至極平凡で・・とても自然体な人。

ちょっと、照れ屋で・・よく困った様な照れた様な感じで鼻の頭を掻く癖がある。

頭の頂上で一本に結われたその髪は、まるで彼の感情を現わすかの様に揺れる。

日に焼けた健康的な浅黒い肌。

そんなに大きくはないけど、黒くって優しげな目。

時々、引き攣るコメカミ。

きっと、年をとったら笑い皺が出来たタイプだと思う。

目の横とか、口角近くとかにね・・幸せそうな優しい笑みを絶やさなそうな老人になっただろう・・。

周りには近所の子供達やら、元教え子の姿があっただろう。


だけど・・


そんな彼の顔の中で、一つだけ・・異彩を放つトコ有り。

その容姿、性格にそぐわないモノが一つ・・。

ほんと、何でこんなものがあるんだろうか?と初めて見た人は一様に首を傾げた事だろう。

そ・・お分かりだとは思うけど、あの真一文字に走る深い鼻梁の傷痕。

彼自身のトレード・マーク?になりかけていたそれは・・どう考えたって普通じゃない。

いくらドジを踏んでも、ちょっとやそっとでは付くことのない傷。

どうしても・・彼の説明では納得いかない、腑に落ちない点がチラホラ・・・。

ずっと気になってたよ・・。




やっぱり、アンタは何かを隠してたんだね。

今となっては遅いけど・・こんな形で知る事になるぐらいだったら

何も分からなかった方が良かったのかもね。

「はぁ〜・・。」

小さいけど、深く深く溜息が吐き出される。

「・・さようなら、イルカ先生・・。」

ゆっくりと散らされていく花弁を見詰て呟く。

その背を気遣う様に、同僚が押す。いつもなら、そんな事して欲しくはないと思うけど、


今はそれが頼りだった。


「傷は・・癒えることを知らねぇよ・・」

ぼそり・・と不知火ゲンマが零す。その言葉にアスマが渋い顔をする。

「だけど・・いつかは、和らぐことはあるわ・・。いいえ、そう信じたい・・。」

言葉を確かめる様に紅が呟く。

なんで、こいつ等は・・いつもこうなんだろう。

あの人もそうだったけど、何で自分だって辛い筈なのに他人の事を考えるのだろうか?

受け入れたくない現実が押し寄せて来ても・・オレは踏ん張る。

あなたの為にも・・ね、イルカ先生。

ゆっくりと沈んでいく日を背に、その場から総ては姿を消した・・。









       まさか・・あなたを見送る日が来るなんて思いもしなかったよ。











「オレ達、忍びって・・何なんでしょうね?」

「え?」

唐突に呟かれた予期していなかった言葉にカカシは言葉を詰まらせた。

「ただの道具に過ぎないと割り切れればどんなに良いか。だけど、やっぱり人であるから

 また、その狭間で悩むのでしょうね。時々・・本当に良いのか?と自問自答を繰り返します。

 こんなに幼い子等を忍びとしての生き方へと導いている自分自身に。

 だって、彼らには他の選択肢が、この木葉の里に居る限りはあるのですから・・。

 忍びとしてはではなくて・・一般人として生きる道は残されているのに。

 何も死に急がせることはないと・・。」

いつになく、深刻な言葉にカカシは何も言えない。

言ってやりたいのだが、何を言って良いのかが分からないのだ。

「・・オレはよく分からないですけど・・人は獣は違います。だから・・上手く言えないんですが、

 いつだって、気が付いた時に引き返せば良いんだと思いますよ。

 やるだけやってみて・・悔いが残らないぐらいやってみて・・それでも違った!なんて思ったら

 やり直せば良いんですよ。遅いってことは無いと思いますからね。」

自分の知り合いにも何人かはいる。忍びとしての任を果たせなくなったモノが

他の道を歩み出している。

ある者は、その器用さをいかして道具屋や薬売りなどをしている。

またある者は、忍びとは全く関係ないが・・牛や馬を育てて・・ある意味で里に貢献していた。

「だから、無駄ってことはないと思いますよ。」

カカシにしてみれば、そのらしくないマイナス思考を取り払おうとして言った言葉だった。

「そうですね・・カカシさんは優しいんですね。おっしゃ、オレも頑張るぞ!と・・てね。」

だけど、イルカの眉間に入った一本の皺は消えること無かったのだ。


-だけど、一度進んでしまった道を引き返せなくなる奴もいるのが現実なんですが・・。


心の内で呟く、その言葉はイルカには伝えなかった。今の彼には余りにも酷な気がしたからだ。


その夜、遅くにカカシは召集が掛かった。

夜気に紛れて、暗闇の一片を切り取ったかの様な

漆黒の一羽の蝶が、幻かの様に窓枠を擦り抜けて・・彼の枕元を舞い続けていた。

「・・・折角の休みもこれで、チャラって奴かぁ。」

ぽつりと呟く。

ふと、視線を横で眠るイルカに流す。

「ん・・うん・・。カカシ・・さん?・・任務ですか?」

まだボンヤリと視界が定まらないのか、頭を軽く振ると上半身を持ち上げる。

「お越しちゃいましたね。まだ寝てても構わなかったのに。」

眠そうなその顔を見て、くすくすとカカシは笑う。


「そう言う訳にもいきませんよ。同じ里のモノが任務に出るというのに・・。」

「それだけ?同じ里じゃなかったら・・心配してくれなかった?」

その言葉に困った顔をする。

同じ里じゃなかったら、こんな風に知り合うことなかったと思うんですけどねぇ。と苦笑された。

「そりゃ、そうですけど。少しは可愛いこと言ってくれると嬉しいんですけどね。」

「可愛いことですか・・。」

少し、俯き加減に考える仕草をとると、何かを思いついたらしい。

ちょい、ちょい・・とカカシにもう少し屈んでくれと頼む。

言われた侭にカカシは少しだけ、背を屈めた。

「照れるんで、目閉じて下さい。」

せせこましく、わたわた・・とイルカは動いたかと思うと、カカシの前に立った。

口の中で何事かを口走る。余りにも、早く・・小さくしかも、口の中で呟かれた言葉だった為

完全にはそれは聞き取れなかったが、端々
だけを拾い上げることが出来た。

【高天原】【
皇神親神漏岐神漏美】【八百万の神】どう想像しても

可愛いとはかけ離れている単語にカカシは苦笑を漏らしえない。

ゆっくりと、額に併せられる二本の指先にも抵抗しないで受け入れる。

-ほんと、変に真面目だよね。

これは祝詞だ。だが、本来・・祝詞はこう言った場面で使うものではない。

それを承知で使うイルカにも、きっと訳があるのだろう。

「・・あなたが無事に帰里出来る様に。と祈ってみました。」

ね、ちょっとは可愛いことしてみましたよ!と言外に言って来る。

何だか、その姿の方が可愛くって笑えた。

「ありがとv・・おやすみなさいv」

チュッとその額に口接けを落としてやると、そこに慌てて手をやり困ったような顔。

「・・反則です!」

みしっと指差して来るその姿が再び笑みを誘う。

「じゃ〜、その借りは帰ったら返して下さい。」

「あ、ちょっと・・」

言い返す間もなく、カカシは蝶と共に姿をたち消した。

「・・・。」

一人残されたイルカは少し考えた顔をする。


コツリ・・

小さな音がカカシの消えた静かな部屋に響く。

どうやら迎えがこっちも来たらしい。

苦笑を漏らす。

ーその祝詞は成就しますよ・・。小さくイルカが呟く。

「だって、オレが願うは・・ただ一人の神だから・・。」

必ず応えてくれるモノ。

もうあの時の様に・・帰らない人たちを待つことも、その為に虚しい祈りも捧げたくない。

そう・・ただ一つ信じれる力。


バサリ・・!!


夜の帳、漆黒の幕・・総てを覆い隠すそれ。

ひらり・・と一片の羽が舞う。






誰も居なくなった部屋に

      音もなく黒い羽が落ち・・

             音も無く消えた。








BGM by:遠来未来
     【夜蝶】


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さぁ・・始まりましたv新しいお話ですv
上手く行くでしょうか??一体どうなるかは・・私もわかりませんが、宜しくお願いしますv