

違和感を感じたのは・・一体、何時の事だったんだろ?
ふとした瞬間。
それは言葉では上手く説明できないんだよね。
でも・・あれ?て思う。感覚的なもんだけどさ・・一体なんだったんだろ?
「ほら・・また。」
誰に言うでもなく、オレはぽつりと呟いた。
「おい。さっきから何をブツブツと言ってやがる・・気持ち悪い奴だ。」
「ん〜。ちょっとね・・。ごめんね、歯切れ悪くてさぁ。」
どうやら、絶対に喰って掛かると思っていたらしく肩透かしをうけたような表情で
アスマが見返してくる。
「変なもんでも喰ったか?」
「かもね〜・・。まぁ、任務には支障が無いみたいだから善いんだけど・・。」
ちらりと視線を動かすと、その先には一人の忍びの姿がある。
「なんでぇ・・テメエのことじゃないのかよ?」
でっかい体が人の視界を遮る。少し邪魔に思う・・。
あの呼び出し蝶ちょが人のことを呼びつけてから、ざっと考えて1時間位は経っただろうか。
今、自分達は任務を請け負い木の上で、じっと身を潜めている。
ついさっきまでは、あの部屋で安眠をしていたというのに今はどうだろうか?
本当・・転職を考えたくなる目まぐるしさだ。ま、実際そんな事は無理なのだが・・。
「この頃、どうしたんだろうね〜・・あの鴉君は?」
「んぁ?」
何の脈絡もない言葉の繋ぎに、アスマは眉間に皺を寄せる。
何でそんな表情が分かるかって?だって、アスマは面を付けてない・・そう暗部じゃないんだ。
今回の任務は異例中の異例と言うべきか・・・溜息も漏らしたくなる。
猿飛アスマ上忍の後方支援兼護衛に暗部一人+αなのだ。
なんで、こんなに物々しいかと言われると、本当に面倒臭い・・。
態々、依頼者が<猿飛アスマ上忍>を指名して、
尚且つその任務がどう考えても暗部階級ときたもんだ。
それで、オレが呼び出された。んで、この頃、里の決まりだか依頼者との取り決めだかで
任務が適切に遂行&執行されたかを見届けるものが暗部が出動する場合は必要となるらしい。
だから・・・今の有様なのだ。
「鴉がどうしたって?」
「ん〜。上手く言えないんだけど、何か躊躇ってる?や・・違うな。」
一人で自問自答を繰り返す。
だけど答えなんて出る訳ない。だって・・本当に何となく感覚的なもんだから。なんだろ?
シュ!!
行き成り、二人の間を何かが掠る。
低く呻く声。
振り返れば、一匹の忍びがゆっくりと地に落ちていく。
「・・注意散漫じゃないですか・・。」
気が付けば、鴉は目の前に移動してきていた。
「何とも言えないな。」
そう吐き捨てると、アスマの表情が変わる。あぁ・・仕事の顔だと思う。
「やれやれ・・・いきますか?」
違和感は続く。
着かず離れず・・。気が付けば彼はすぐ近くにいた。
絶対に仕損じる事の無い位置。
だから、オレ自身は安心して動けたのは本当。
何でこんない動き易いのかな?と思うけど深いことは気にしなかった。
もしかしたら、あの頃は考えたくなかったのかも・・
その漆黒の鴉の正体を。
ねぇ・・・ほんといいから、そんな事してくれなくって・・。
怖いんだ・・。
ガッツン!!
物凄い音がして目の前に火花が散り、赤い雫・・これは血か。
「何やってるの?!」
驚いた・・鴉が敵さんとの間に割って入ったから。
何やってんだよ・・。
グイっと引き戻した彼の腕から赤い地が流れてる。
「・・・・。」
思わず顔を顰める。前にいる邪魔な物体を一振りで払うと、
力なく敵はぐにゃりと不自然な方向に折れ曲がって落ちていった。
「何で態々、オレの前に出た?」
「・・・あなたを傷付ける訳にはいきませんから・・。」
絞りだされる声。溜息が漏れる。
「あんた・・・馬鹿じゃないの?」
傷付ける訳にはいかない・・。て?嫁入り前の娘でもなければ、
国家を揺るがす最重要人物じゃない。
ただの忍びだ・・。
幾ら屈指とは言え、使い捨ての道具に過ぎない。そんなの分かってるだろ?
「あんたの仕事は・・ただの見届け人だよ。オレらが仕事を完遂しようと・・
裏切ろうと・・死のうと、関係ない。ただ見届けて<上>に報告する。
それが全てだよ。」
そう言って、彼の腕を放す。ダラリ・・とその腕は重力に従がって下へと落ちた。
奇妙な空気、押し潰されそうな沈黙。それを破ったのがアスマだった。
「・・おい。先、急ぐぞ。」
「あぁ。」
ちらりと向けられた、アスマの視線は言い過ぎだと責めていた。
だが見返すと、すぐにその色は消えて・・はぁ〜と深い溜息が聞こえて、
その大きな手を下顎の髭へと宛がった。
『その面の下から覗く瞳。
その色には見覚えがあった。初めて同じ任務についた時は流石に驚いた。
・・まだ、こんな世界にいたなんて・・。
それでもいいと目を瞑ってきた。
その人にはその人の事情があるだろうし、いつかは分かるだろうと
何となく思っていたから。
何よりも手の届かないところで、逝かれてしまう位ならば、
まだマシかとも思った。
伸ばせば、届くところに居れば護れると・・。
だっけど、それはただの驕りで、その人は何も振り返らずに
真っ直ぐと突っ込んでいく。
オレの護りたいと言う感情なんて、まるで無視して・・その人は身を躍らせる。
こんなに近くにいるのに・・
『やはり自分は無力なのだと思い知らされる・・。』