任務の最中、決して正気を保ってはいない。
しかしそれは周りを見失っているわけではなく、辺りの様子が
気にならなくなるというもの。
…だから、任務遂行後、その『物体』を『処理』し終え、
腐臭が消えるまで、気付けなかった。
血の臭いに酔っていた自分たちが、正気を取り戻して振り向いた先。
3人の子供が、驚愕に青褪め・・此方を凝視していたことを。
『現』と『朧』の狭間
「ぃ・・せんせ・・イルカ先生ってば!」
「あ・・悪い。どうした・・ナルト?」
呼ばれていたことに気が付いて・・我に返ると、こちらを少し怪訝そうに見ている
子供に対して、いつものように柔らかく微笑んでみせる。
すると、子供は安心したかの様に自分に戯れついてくる。
「早く行こうってば!もう、外でサクラちゃん達も待ってるって・・!」
「すまん・・すまん。」
苦笑を浮かべると、トントン・・と目の前の書類を引き出しの中にしまう。
早く、早く!と言いながら子供は急かす。
ゆっくりと席から腰を浮かすと・・忘れ物は無いかと見回してみる。
すると・・グン!と強い力で腕が引っ張られた。
「おっと・・。」
大して驚きもしないが、何となく声が出る。
「早くってば!」
「わかったよ・・。」
「もう、遅っ〜い!!何やってんのよナルト!」
ぷぅ〜っと頬を膨らませながらサクラがこちらを見てくる。
だって〜・・イルカ先生が・・・と必死に弁明するナルトの話しは
,きっと聞いてはもらえないだろう。
呼びに行った意味が無い!と言い切るサクラの様子に・・
それを横目にサスケは歩きだした。
「すみませんね・・。」
「いえいえ・・。」
建前上の会話・・が内心笑えた。
だけど・・そんなの微塵も感じさせずに相手と歩き出す。
まぁ・・それに合わせられる相手も相手なのだが・・。
「そこでオレが飛び出して・・言うってばよ!『怪我はなかったか?』
ってそうすると・・二人は」
「ない、ない!それは夢だからよ。」
自分らの2.3歩前を歩く3人の子供たちからは楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてくる。
「何を楽しそうに話しているんですかね?」
「あぁ・・。アレですよ・・。ナルトが見た夢がね・・サスケたちのピンチを救った!
とか言うのらしく・・さっきからずっとあの話しばかりしているんです・・。」
いつもと変わらない大して興味の無さそうな間延びした揚々のない声。
「ははは・・それは。そう言えば・・今日は任務どうだったんですか・・?」
「…簡単でしたよ。久々に体力勝負って感じで・・。」
そう言いながら顕になっている片目で弧を描いて見せた。
でも、なんだかそれが苦笑交じりな気がする・・。
−何かあったかな・・。
今日の彼らの任務は確か・・自分が今朝手渡した任務依頼書の内容を
ふと思い出してみる・・そして
「ぷっ・・」
と思わず噴出した。
「あ!今,笑いましたね!」
漏れ出す笑いを堪えると、喉と腹が痙攣する。
「くすくす・・すいません・・。だけど・・」
だけど・・いくら任務とはいえ『カカシ先生』が逃げ出した豚3頭を追い回している姿を
想像すると・・これが笑わずに済むだろうか・・。
「酷いです・・。」
「そんな情けない声、出さないで下さいよ。」
「どうしたってばよ?」
3人がオレの声に立ち止まって振り返った。
「いや・・何でもないさ。・・お前ら、今日の任務は頑張ったのか?」
笑いの余韻をなんとか抑えると、子供らに目を向ける。
「当ったり前よ!ブゥ〜、ブゥ〜・・言う豚を取り押さえて・・」
「イルカ先生、聞いてv」
自分の活躍劇を自慢気に語ろうとしたナルトの前にサクラが飛び出してきた。
その瞳は何やらとても楽しそうである。
その様子に素早く何かを感じたのか・・静止の声が降りかかる。
「あ?!サクラそれは・・待て!」
珍しくギョっとした表情を浮かべるのが気にかかり・・
隣りでわ〜わ〜・・と何やら騒ぐ相手を無視して話すの先を促した。
「あのね・・カカシ先生ったら可笑しいのよ!ふふ・・」
思い出したかの様にクスクス・・と笑う。
「子豚をね、捕まえてふらふらと歩いていたら・・
後ろから親豚に突進されてそのまま遠くまで連れ攫われちゃうんだもん。」
「ふえ・・」
自分でもかなり間抜けな声を出した自覚はあった。
目を2.3度、ぱちくり・・すると、横を歩く相手に視線を動かす・・。
そして・・折角抑えた笑いの余韻が再びぶり返した。
なんて顔しているんだ・・。かなり笑えてしまったのは事実・・。
「だっせ〜よな!上忍にくせに何やってんだか・・。」
「フン・・初めに会ったときにナルトの黒板消しに当たった時と何ら変わってないな・・。」
「もう二人とも言い過ぎよ・・。」
そうは言うもののサクラの顔にも笑みが見られる。
きっと内心ではこの状況を他の二人と同じくらい楽しんでいるのだろう。
「はいはい・・。全く・・これだから子供は・・」
「いやぁ〜・・本当に今日はよく笑わせてもらいました。」
「・・良かったですねぇ〜。」
微妙に拗ねたような音色を含み返された言葉に苦笑が漏れる。
「うわぁ〜・・凄いってばよ!」
「綺麗〜!!」
先を行く子供たちから感嘆の声が聞こえてくる。
何事かと・・ゆっくりと歩み寄ると・・
視線の先には山の端に沈みかける夕日の姿があった。
赤く・・朱く・・全てを染めていくソレに瞳を奪われる・・。
自分の内側で何かが蠢くのを感じながら・・そっとそれを窘めた。
「キレイですね・・。」
いつの間にか隣にきた相手が呟いた。きっと同じものを感じ取ったことだろう・・。
「えぇ・・とても・・キレイですね・・」
そう応えて笑みを深める。
「ぃ・・イルカせんせ?」
ふと、自分の衣服の裾を引かれた感覚に目を落とす。
「綺麗・・?夕日・・綺麗?」
聞き返してくる子供に瞳を併せて・・首肯いた。
「あぁ・・とっても綺麗だな。」
ぽん・・とその子供の頭に手を置いた。
ほんの一瞬の間の後、子供は顔いっぱいの笑顔でーへへ・・。と返してきた。
本当にキレイだ・・本当に・・。
重ねられた何かの残像・・に柔らかく笑む。
・・その朱に魅せられた・・・。
その2へ
BGM BY * TARBOX { NOT LOVE ]