「お早う諸君。」
「遅〜い!!今日は何に迷ったんですか!」
サクラの怒号が一発目に掛かる。
その様子にカカシは苦笑を浮かべる。
「いや〜・・今日はどのお気に入りの下着を付けようかと迷ってね・・。」
「誰が見るんです、そんなの!何だっていいじゃないですか。」
呆れたようなひくついた笑みを浮かべるサクラ。
「ん・・何なら今見せようか?いや〜ぁ・・けっこう迷ってさぁ・・」
そう言ってイソイソ・・と服に手を掛けるカカシにどこからともなく
手裏剣が飛んでくる。
が、それはまるで蜃気楼のように姿を消した。
「チッ・・、いらんことするな。」
「ははは・・今日もご機嫌だな。でもこれじゃ・・まだオレは倒せないよ。」
そう言ったカカシはサスケのすぐ背後に立っていた。
「放せ、このバカ!」
首根っこを掴まれてまるで猫のようにバタつくサスケを軽々と
抱き上げるとサクラたちのもとへ戻って来てその場に下ろした。
「さてと・・・。」
ちらりとナルトに視線が送られる。
「なんだってばよ・・。」
ギクリ・・と自然に身体が強張ったがそれを必死に押さえ隠す。
「ナルト、お前昨日の夜何してた?」
その質問に全員が一瞬、身体を強張らせる。
(お願い・・。)
(チッ・・。)
「え・・。き、昨日は・・何って。あ!ラ〜メン食べてから・・カカシ先生の縫い包みで
修業してたってばよ!」
「へぇ〜・・オレの縫い包みでねぇ。って、お前はまたそんなことしてたのか!」
ぐいっと捉まれると、ぐりぐり・・とコメカミの部分を拳で捻り込まれる。
「痛・・痛た・・マジでギブだってばよ!!」
その声にカカシは手を離した。
(どうやら・・消されていると思われたか。)
「さぁて・・今日の任務は何かねぇ・・?」
そう言って子どもたちを引き連れてゆっくりとカカシは歩き出した。
「ふぅ〜・・。」
「お疲れですね、イルカ先生。」
向かいの席に座る同僚が溜め息を漏らすイルカの様子に声をかけた。
「はぁ・・。またさん太のやつが宿題を忘れましてね。」
「はは・・それはまた。なんだか、毎年手を焼く生徒をお持ちで。」
その言葉は暗にナルトを指していたが、イルカは軽く笑んで
「そんなことはないですよ。皆、それぞれに良い子ですよ。」
と答えて見せた。
「そ、そうですか。頑張ってくださいね。」
そういい残すとその教師は席を立って、廊下のほうに消えていった。
「やれやれ・・。う〜ん!!」
両手を頭の上のほうで組むと思いっきり背筋を伸ばした。
すると、ガタリ・・と大きな音を立ててイルカを連れたまま椅子が後ろに倒れたのだ。
「痛って〜・・。」
「大丈夫ですか?イルカ先生・・。」
「あ〜・・すみません。」
かるく腰をさすりながらイルカは立ち上がった。
その様子に周りにいた者たちは苦笑をうかべた。
「本当にお疲れみたいですね。気分転換に外にでも行かれたらどうです?」
「そ・・そうですね。」
気恥ずかしそうに、鼻の頭を掻きながらイルカは職員室を後にした。
「はぁ〜・・何やってんだか・・。」
大きく息を吐き出すと、イルカは空を見上げた。
どこまでも抜けるように青い空にポッカリ・・と雲が浮かんで漂っている。
穏やかな暖かい風が吹くと、イルカの髪を揺らした。
「いい日だな。弁当でも持ってどこかに行こう。って誘いに来たのか?」
「昔、よく行ったね、アカデミーの授業を抜け出して。きっと・・あの野原は
今頃小さな野草の花が咲いているだろうね・・。」
「だろうな・・。そんなこともあったな。お互いまだ何も背負ってはなかったし・・。
元気・・みたいだな。」
「お前もね・・。」
自分の横に腰を下ろしたその人物にそっと背を預ける。
同じ様に相手も寄りかかってくる。
「川遊びにでも行くか?」
「流石に・・まだ川の水は冷たいよ。」
「そうだな・・。」
少し残念そうなイルカの耳にくすくす・・と笑う声が聞こえてくる。
「そう言えばさ、こないだカヨ先生に逢ったよ。」
「へぇ〜まだお元気だったんだ。あの先生って、確かもう70近いよな・・。
オレ達がアカデミーのころで50ぐらいいってたもんね。」
「そうだな。相変わらず元気で明るかったよ・・それととてもミズキのことを心配なさってたよ・・。」
そう言って顔を相手の方に向けた。
ミズキの表情は俯いているための見ることは出来なかったが、
すぐに答えが戻ってきた。
「そう・・。何かと世話焼いてくれたからね、オレ達二人の・・。」
「だから、『元気ですよ、きっと。』て言っておいたよ。そしたら笑ってた。」
「そう・・なら良かった。」
小春日和の日のしたで穏やかな会話は紡がれる。
それは・・昔からお互いを知っている幼馴染の他愛も無い会話・・。
静かに過去の時を振り返り楽しむかのように。
互いに一番・・何も考えずにきっと穏やかだった日々・・。
暖かな陽光は分け隔てなく全てに注がれる。
時折、鳥のさえずりが聴こえてくる。
「穏やかだね・・相変わらず此処は。」
「うん・・。穏やか過ぎて、ボケそう。」
「くす・・だろうね。イルカがこんな失敗するとは思わなかったよ。」
そう言って、イルカの左手の甲に触れた。
「カカシが知ったら・・きっとヤツのことだから怒るに決まってる・・。」
「それを言うなって・・。」
言われなくとも分かっているさ・・と表情が語る。
「そうだな・・。それと、これはお土産だよ。」
そう言って、一枚の紙切れをイルカの膝の上に置いた。
それは雨隠れの里の報告書・・。
何かが染み込んで黒ずんだ汚れが点々・・と着いていた。
そこには・・『写輪眼のカカシとその相方について』と雨隠れの里の忍文字で記されていた。
「昨夜・・月がキレイだったろ、何気なく空を見てたら変な鳥が飛んでいてね・・。
あまりのもその鳥が風情を壊すものだったから・・捕まえたらそれが出てきたよ。
それ見てて・・イルカが困っているかなと思って。」
淡々と語るミズキ・・。
そう、これはあの間者が放ったものだったのだ。
鳥と言っても、それは式なので容易には捕まえられるものではない。
しかも、このような報告書に変わるものはその姿すら滅多に人の目につくものではなかった。
それを簡単に捕まえることのできたミズキを改めて面白いと思う。
「ミズキ・・これ」
続きを言おうとしたときにそれは子どもの声に掻き消された。
「わぁ〜ミズキ先生だぁ!!」
「ミズキ先生、遊ぼうよ!!」
ミズキの姿を見つけた子どもたちがその足元に駆けてくる。
ミズキの里への裏切り行為は里の中、下層部には降りてきていない為に
子どもたちはミズキがいなくなった本当の理由を知らないのだ。
「先生、身体大丈夫?病気がよくなくって先生を続けられなくなったて聞いたよ。」
「あぁ・・ごめんね。先生も本当ならモエたちと遊びたいんだけど・・今日は特別に
病院の先生に許可を貰ってイルカ先生に会いに来たんだよ。・・本当にごめんね。」
そう言いながらミズキはしゃがみ込んで視線を子ども達の高さまで下ろしている。
「わかったよ。じゃぁ・・はいコレ!ミズキ先生にあげる。」
子ども達は手に持っていた花をミズキに差し出した。
それを受け取るとニッコリ・・と微笑んだ。
「ありがとう、みんな。」
「また、あそんでね。」
その言葉にミズキは頷かない・・頷けないのだ。
子どもが不思議そうな顔をすると、その子の頭を優しく撫でた。
「ほら、向こうで皆と遊んでおいで。それと、先生と会ったことはみんなには内緒だよ。
みんなも会いたくなっちゃうからね。」
「うん、わかった!お母さんにも言わないよモエ・・。」
「いい子だね。」
そのミズキの姿を見て、イルカはなんだか可笑しく思う。
そう、それはまるで今の自分を見ているようだったからだ・・。
駆けていく子どもの後ろ姿に手を振り、何回も振り返る子ども達に
優しくミズキは微笑んでいた。
「さぁて・・そろそろ帰らないと・・。」
「外出時間を過ぎて医者に怒られるか?」
「くす・・かもね。・・イルカ、幼馴染として言うけれどいつでも歓迎するから。」
「ありがとう。」
すると、序々にミズキの姿はぼやけて行く。
そして最後の消える瞬間に、イルカに向かい何かが投げられた。
「受け取ってくれ・・じゃあ、また。」
その言葉を残してミズキは姿を消した。
後に残されたイルカのその手には先ほどミズキに
投げ渡された小さな小瓶と紙が握られていた。
その小瓶は毒消し作用がある効果の高い傷薬だった。
「そういえば・・あいつ薬や毒に長けてたっけ・・。」
ミズキの消えたその虚空を見つめてイルカが呟いた。