「さようなら!サクラ先生!!」
「気を付けて帰りなさいよ!」
明るい高い声が人気の少なくなった校舎内に響いた。
誰もいなくなった教室を眺めると、その黒板を消しに掛かる。
あれから・・何年経ってしまったのだろうか・・?
この教壇に立つ度に思い出されるあの笑顔。本当にアレは偽りだったのだろうか・・?
自分だけがはっきりと覚えている記憶・・。
そう、あの後に気がつくと木葉の里の病室に寝かされていた。
二人の恩師の名を口にする自分に対して・・全ての人は首を横に振った。
まるで覚えていないのだ・・全ての人が・・。
あのサスケくんやナルトすら・・。
どうして?と絶望に堕ちかけた自分に応えてくれたのがアスマ先生だったけ・・。
イルカ先生が自分たちの記憶を消したと同時にアスマ先生自身が、
その他の人たちからイルカ先生達の記憶を消したと・・。
なぜ自分だけイルカ先生たちの記憶封じが掛からなかったかというのは、
きっとその手の術に長けていたからだろうとのこと。
どうしてそんな事をしたのか?と問う自分に苦笑を浮かべてた。
−オレもお人好しらしい・・。て、呟いた。
二人が戻って来ると同時に二人に関する記憶の封は解けるらしい・・。
それとは別にサスケくんたちに掛けられた術は自分で破るか、
その本人が解くことでしか破れないものだった。
だけど、アスマ先生が言うにはそのほうが
都合が良いらい・・何でだろう?
だけそ・・きっとあの二人を連れ戻すから。って言ってくれた
あの言葉は信じたいと思う。
「サクラ〜・・何してるの?」
「あ、イノ!任務は終わったの?」
「えぇ。ご飯でも食べに行く?」
「うん。」
「里の脅威とするよりも・・それならば抱き込んでしまえと申すのだな。」
「はい・・。里の脅威として向かえ討つには余りにもリスクが大きいです・・。
互いの手の内もバレていることですし・・。それならばいっそ、言い方は悪いですが
あの九尾同様に飼い馴らしてしまえばいい・・と。」
暗がりの中で交わされる会話はいつだって醜く汚れている。
それは決していつの時代も絶える事の無い会話なのだ。
「まぁ・・いつ飼い犬に手を噛まれるかは分かりませんが、抱き込んでしまう方が
その危険性は低くなると猿飛上忍はお考えですかな・・?」
「そんなモンだ・・。」
横から口を挟んでくる他の輩に目をくれると再び、火影へと戻す。
「・・だが一筋縄ではいかないだろう・・。」
「はい。ですから・・あの二人への任務を要請します。」
「うむ・・よかろう。」
その言葉を受けると、アスマは深々・・と頭を下げる。
「調度良い機会だろう・・。あの二人の力量を試すに当たってもな・・。」
「えぇ。」
「あ!アスマ先生!!」
「よぉ・・てイノもいたのか・・。」
「何その言い草は・・。私のほうが可愛い教え子でしょ・・。」
その様子に煩わしそうに煙草を咥えた。
「ほぼ毎日、任務で顔付き合わせているのに・・挨拶もあるかってんだ。」
「ひっど〜い!!」
どうやら二人は飲み明かした後らしくほんのり・・とその顔は蒸気していた。
「さてと・・私はこっちだから。い〜ぃ、アスマ先生!サクラのことをちゃんと送るのよ!」
「はいよ・・お前も気をつけろよ。」
「は〜い!じゃ、またねサクラ!!」
ひらひら・・と手を振るとイノは角を曲がって消えていった。
その様子にアスマは溜め息を大きくついた。
「たく・・面倒臭ぇな・・アイツはよ。」
「くすくす・・相変わらずですよね。」
そして二人は歩きだした。
二人になると、会話は決まってイルカやカカシのことになる。
どうやら里を抜けた後、二人は特に腰を長く据えるような場所を持ってはいないらしい。
何度も追っ手は掛かってはいるが、軽く追い返されてしまうのだった。
「・・今度な・・。あの二人がイルカ達を追うことになった。」
「え・・。」
その言葉にサクラは立ち止まって、アスマを見上げた。
あの二人・・それはナルトやサスケを指すのだった。
ナルトやサスケがイルカとカカシを討つ為に要請されたことに
サクラはその場に倒れそうな感覚に襲われた。
「な、、何考えているんですか!?」
「まぁ・・話は最後まで聞け。討伐目的でなく・・捕獲・・つまりは連れ戻す目的だよ。」
「え・・?」
そのようなことは普通有り得ないのだ。
どんなことに対しても例外なく、抜け忍は追い忍によって討伐されてその全てを・・
存在すら消されてしまうのが常なのだ。
「どういうことですか・・?」
「・・フン。敵にするよりは飼い馴らす方を選んだんだよ・・。」
アスマの話では、ただ戻って来いと行ったところで素直に
従がう輩ではないに決まっているとのこと。
それならば・・一番あの二人が望む形を作ろうと考えたらしい。
「アイツらがお前たちの記憶を消したのは・・その記憶が妨げになって
・・将来、お前らが一人前の忍になれないことを危惧したからだよ・・。」
「そ・・そんな。」
ふと込み上げる思いをサクラは飲み込む。
「分かってやってくれ・・。アイツらは器用じゃねぇんだよ・・。」
「早く戻って来るといいですね・・。」
「あぁ・・。」
「御意・・。」
「甘くみるな・・。」
その言葉を背に受けて二人の青年が闇の中に溶け込んで行く・・。
「ふぅ〜やれやれ・・。」
深く火影は溜め息を吐き出す。
そして、どうか・・上手くいってくれと願う。
「久々だってばよ。元気だった?」
「見れば分かるだろ・・。しかし・・捕獲しろとはまたどういうワケだ。」
独り言のようにサスケが呟く。
生憎・・今夜は任務だと言うのにも関わらず、昨夜から降り続ける雪が止んでいなかった。
木々や野原は白い雪に包まれている。
未だ・・雪はしんしん・・と降り続いていた。
「何でも、すんげぇ〜強いらしいってばよ!」
「別に何だって構わない・・。」
瞳をワクワク・・させながら輝かすナルトとは対照的にサスケは淡々・・としている。
闇夜は雪雲のせいか灰色がかってみえた。
その中を若い暗部の二人が息の合った速さで木々の間をすり抜けていく。
そして・・
目的地へと音も無く降り立つ。
それはどこかで感じた覚えのある緊張感・・。
姿を現した標的を目の前にした途端全身をソレが取り巻いた・・。
(どこかで・・どこでだ・・?)
頭を渦巻く覚えのないはずなのに懐かしい感覚・・。
「へぇ〜・・これはまた面白いな。」
相手が呟く。
そして・・その刹那のその姿は消える。
速さに目が追いつかない。
ヤバい・・と思った瞬間に、遠くに身体は投げ出された。
「クッ・・」
唇を強く仮面の下で噛み締めると、ナルトは素早くもう片方の黒髪の男に襲いかかる。
ゆらり・・とかわされた動きはそれはまるで舞いを見ているようだった。
だけど、確実に返される攻撃は的確に的を捕らえている。
ちらり・・と横にいるサスケに目をやれば、同じく銀髪の相手に苦戦を強いられている。
「他人を気にしている場合じゃないよ・・。」
そう言われたかと思うと、ナルトの脇をクナイが掠める。
「どうした?いつもの元気は・・?」
「なっ・・」
そう言うと、勢いよく地を蹴りつけると相手との間を取る。
追ってきた相手の手裏剣がナルトをとらえたがそれは・・煙のように消える。
「・・強くなったな。」
そう呟くと背後に現れたナルトにクナイを向けた。
「アンタ・・誰だってばよ・・。」
困惑の表情を浮かべる。
どこかで覚えのある戦い方に、その身に纏われるチャクラの気配・・。
サスケも同じことを感じていた。
この戦い方はどこかで、自分は目にしたことがあると・・。
そう、ずっと幼い時に・・。
「さぁね・・どこだろうね。」
そう銀髪の男は呟くと印を結びだす。
一瞬に判断して、サスケは左後方に飛び去る。
サスケのいた場所を、劫火が焼き付けたがそれはサスケを捉えることはなかった。
(どこでだ・・。)
必死に考える二人の脳裏にとある記憶が揺らめく・・。
それは幼いころから見続けていた夢。
自分だけではなくナルトも見ていた同じ夢。
サクラに話すと・・曖昧に微笑まれた夢・・。
誰かが二人いるのだ・・。
自分が信頼を置いた誰かが・・。
その二人は血に塗れても笑っていた・・。
だけど、なぜかこちらを見た途端に悲しそうに微笑んだ。
そして・・雪の中に消えていく・・。
誰なんだ・・。
「ぼやぼや・・してると本当に死ぬよ。」
その声と共に真空状の空気がサスケの身体を切り裂いていく。
「くわぁ・・!!」
全てを避け切ることは出来ずに数発がサスケをかすめた。
引き裂かれたそこから赤い血が流れ出す。
それに相手は目を細めた。
(この光景は・・どこかで・・。)
その光景を目にした途端、ナルトが膝をその場についた。
「・・んで・・だって・・よ」
小さく擦れた声が耳に届く。
(ナルト・・?)
相手も攻撃の手を止めてその様子を見守っているみたいだった。
「・・なんでだってばよ、イルカ先生、カカシ先生!!」
「何・・?!」
その言葉に4人の動きが止まった・・。
ゆっくりとナルトがその暗部の仮面を外して素顔を曝した。
その頬は涙で濡れている。
同じくサスケも仮面を外すと・・ゆっくりとナルトに歩み寄った。
「ナルト・・サスケ・・。」
持ち上げられた顔はしっかりとイルカとカカシを見ている。
「・・なんであの時、オレ達のことをもっと信じて認めてくれなかったてばよ!!
そしたら・・」
消え入るそうな声が空気の中に溶け込んでいく。
どうやらサスケも思い出したらしく、じっと同じ様な瞳で見つめてくる。
「うん。そうだな・・。
でもいいんだ・・お前たちだけが認めてくれたのが分かってたから・・。」
「なんだよ・・それ。勝手じゃないか・・。」
キッと睨み返すサスケにカカシは苦笑を浮かべた。
「まぁ・・んな顔するなよ。・・良かったよ。お前たちの力が見れて・・。」
「だったら、もういいじゃんか!」
帰ろう・・と繋げようとした二人の前に突風が吹き荒れる。
そして、再び雪し巻く中にイルカたちの姿を見失った。
「なんでだってばよ!!」
ナルトの声が虚しく響いた。
ゆっくりと・・現と朧が重なりだす・・。
だけど、それは決して戻らぬ日々・・。
本当にオレらはこのまま「イルカ先生」と「カカシ先生」を
現実としても幻としても失うしかないのだろうか・・・。
雪し巻く中・・またオレらは二人の姿を見失う・・。
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