「お、前ら…」


イルカが呟く。

「なんで…」

強張ったまま、カカシが三人へと視線を移す。

青褪め、驚愕に目を見開いている子供たち。

その気配は僅かに薄れていたが、自分たちから見れば全く消えていなく。

こんな状況なのに、あぁそれじゃダメだな。もっとしっかりと消さないと…などと、頭に浮かぶ。

それは、二人がした初めての、現実逃避というやつだったのかもしれない。

今までの自分たちからは、考えられぬほど衝撃を受けていた。


静寂がその場を占める。

子供の唇が、せんせい、と声無く形作られたのを見て、闇の中ビクリと身が強張った。

それは決して悟られるほどの動きではない。

隣にいるカカシが、イルカの外套の裾を握り締めた。

怯えられた。そう悟る。

まだ下忍になりたてのこの子供らには、暗殺任務は早過ぎるし、

忍同士の戦闘による死者も見たのは、まだ一度だけだ。

そんな子供たちに…この、狂気紛いの現場を見られた。

自分たちの気質が他の忍とは異端であることは気付いていた。

しかし、暗部の中にいればそれは異常ではなく、何ら気にするものでもない。

昔一度、暗部と正規部隊とが同じ任務に出たことがあった。

その時、普段通り楽しみながら任務をこなしていた自分たちに、向けられた視線を思い出す。

怯え、嫌悪に近い恐怖を含んだ視線。

怯えられることにも畏怖されることにも慣れている。

しかしその視線を向けるのがこの子供たちだという可能性を

思い巡らし、身体の芯がざっと冷えた。

それが、何よりもショックなことなのだと、気付いてしまった。

この状態から、どう動けばいいか。

まるで思考が凍り付いたかのように、何も考え付かなかった。


それは数秒だったか、数分だったか。

多分数十秒しか経っていなかっただろう。

しかし、その場にいたイルカとカカシにとっては、何分もの時に思えた。

ふいに、ざっと草木が揺れ、近くに気配が降り立つ。

戦闘中でないことを遠目で判断しただろうその男は、気配を殺すことなくその場に来た。

「おい、お前らまだ終わってねぇのか? ったく。一人こっち来たから、殺っておいたぞ」

姿を現したのは、アスマで。固まっているイルカとカカシを見て、眉を潜める。

「どうしたよ。そんな顔し…ん?」

あまりにも不自然なその様子に、二人の視線の先を見る。

と、其処には、凍り付いた視線の先、

同じく驚愕に青褪め二人を見ている、子供たちの姿があった。

状況を瞬時に把握し、ちっと舌打ちする。

めんどくせぇ事態になった、と内心呟いた。


「アスマ…」

「お前ら終わったんだな?」

「あぁ…」

言葉数少なく、視線をアスマへと移しイルカが口を開く。

カカシたちの傍までやってきたアスマは、近くに転がる屍体を見止め、はぁと溜息を付いた。

―なんつー惨たらしい殺し方してやがるんだ…。

イルカが殺気立っていたのも、それにカカシが煽られたのもわかる。

しかし、タイミングが悪すぎた、とアスマは冷静に判断した。

この子供たちに、この屍体はきつ過ぎるだろう。

本当に、めんどうなことになった。

ぼやきながら、再び溜息を付いた。

「お前ら、先に帰れ。俺が死体処理はしておく」

「…いいのか」

その言葉に、どこか遠慮がちに聞こえる声で答えられ、思わず笑いそうになった。

あの残虐非道な奴らが、ここまで動揺するなんてな、と。

「さっさと帰れ。お前らがいても何の解決にもならんだろう」

「…じゃ、頼もっかな?」

上辺だけ普段と同じ様に取り繕い、軽い口調で返す。

そんなカカシに、アスマは噛み殺し切れなかった苦笑を浮かべた。

手で追い払う動作をする。そして、タバコを取り出しながら、再び早く行けと告げる。


悪い、と小さく声がし、瞬間その場から気配が消える。

まるで、そこには最初から誰も存在しなかったかのように、二人の姿は闇へと溶けた。













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