その「桜」は他の仲間とは違う流れで生きていた…。
   

               それでも一人で平気だと思っていた‥否、気が付かなかったんだ。


                自分が寂しいって感じていることにすら‥何も感じずに。


                       だけど、ほんの少しのきっかけで気が付いてしまった…


                         自分が一人で寂しいのだと。

                    
                        だから、呼んだんだ‥誘ったのだ。

  
                         自分と同じもう一つの「桜」を…。



 

     「夢見草」



 

    「そうか・・朔夜まで辿り着いたか。お前のことじゃ、そっとしてはおかぬとは思っていたが・・やれやれ。」

              かかしに背を向ける形で窓辺に立つと、大きく溜息をついた。

            それから何も進展をすることはなかった・・が、かかしは再び火影の元を訪れた。

   「朔夜はイルカの親友だった男じゃ・・。奴はイルカを庇い死んでいった男じゃ。それが元で、

    大きな悲しみに包まれたイルカは過去の「焔」としての記憶とともにその悲しみを
封印したのじゃよ・・。」



                  そうしなければ、イルカはきっと・・・。

 






 

         ある特令でオレたちはとある国から密書を預かり解読をしそこに記されている場所に

                その密書を届けるという任務だったのだ。

                      そのなかにはイルカ先生とオレの姿が・・

                    奇しくも過去のあの場面と重なるものが・・。

                「しかし、あれだなぁ・・アンタも大変だね。」


                  一緒に来ていたアスマがつぶやいた。

          「いえ・・火影様の命であれば。皆さんの足を引っ張らないかが一番心配ですよ・・。」

          「それは心配ないだろう。かかしがしっかりついてるだろうしな・・なぁ、かかし。」

                   自分の右後方を走るオレにアスマが目をくれる。

                        「まぁね・・。」

             今回、オレら上忍に混じり中忍であるはずのイルカ先生がいるのは

            密書の解読ができるのがこの人だけだということだからだ。

                「・・なんで、そんな暗号が解読できるんだ?」
 

            「えっ・・、いやぁ・・なぜか得意なんです。こういうの・・。」

      はにかみながら答えるイルカ先生を横目にみる。何もしらなければ、ただ照れているだけに見えるが、

                      今はまるで何かをはぐらかしているみたいだった。


 

                    そしてそれは起こった・・

                        いや、オレが仕組んだというべきか・・。


                       「かかし!!」

            アスマも驚いた声とあの表情は傑作だったなぁ・・それと「イルカ先生」、

               アンタの顔も忘れられないね。青ざめた顔に見開かれた瞳はオレを映しながらも


                   もう一つの記憶も映していたでしょ・・。

                                「かかし先生!」

    
                     「・・良かった、大丈夫みたいですね。」

             露になっている右目がにこっと弧を描くと、ゆっくりとかかしはイルカのほうへ倒れこんだ。

                      「かかし先生、かかし先生!」

                 イルカ先生の呼ぶ声が、段々と遠くなっていく・・。


                               「うわぁぁ・・!!

                     その場にイルカが崩れ落ちたのだった。







 

 

                 次にオレが目を覚ましたのは病院内のベッドの上だった。

                      ぼ〜っと天井を眺めていると、視界に覗き込むように誰かの顔が入ってきた。


                       「よぉ・・大丈夫か?あれ・・期待外れって顔だな。」


                   にやにやっと笑いながら顎の不精髭を触っている。

 
                        「・・アスマかよ。」


                 「おぅおぅ・・お言葉だねぇ。イルカなら大丈夫だよ。
奴からの伝言だ・・。

 
                    「白神」の元で待ってます。」だとよ・・って早ぇぇなぁ。」


                      もうアスマの前で寝ていたはずのかかしの姿はそこにはなかったのだった。


                      「ふぅ・・世話がかかる奴らだぜ。」

 



                  「白神」の元で・・どうやら「彼」が戻ってきたらしい・・。


                     かかしの目の前にあの時と同じく咲き誇る「白神」の姿があった・・。


                           どういうことか?桜の神の気紛れか・・


                        この間来た時にはこの桜の梢には一輪の花が咲いていただけだと言うのに・・。



                       そして、その元に「彼」は立っていた。

  
                          「・・まさかまたこの下に来ようとはな。」


                         そう言った「彼」は口元に薄い笑いを浮かべていた。


           「もう怪我の具合は良いのか・・わざわざオレを呼び起こす為に負った怪我はよ・・。」


                      「参ったねぇ・・全てお見通しですか?」


                 「火影さまに言われなかったか・・「イルカ」をそっとしておいてやれって。」


                            その問いにオレは目だけで笑ってみせた。


                「それが・・答えね。・・だったらオレはもう何も言わないさ。」


                    そしてオレの目の前に「彼」が戻ってきた。


                   「・・オレ、・・全部、思い出しましたよ。」


                     その人は静かにそう呟いた。あの時と同じだった・・・。


                           肩を震わせるでもなく、喚くのでなく・・。


                 己の激情のままに泣き叫ぶ者は今までに何回も見たことはあった。


                               でも、これは違う・・。


                                「イルカ先生・・。」


                    「・・オレって、最低ですね。自分を守る為に大切な友の事すら、


                     分の暗い部分と共に忘れていたなんて・・。」


                           彼の頬を一筋の涙が流れていく。


                あの時と同じだ・・この人は本当に静かに泣く・・・。


                      その涙に引き寄せられたかの如く唇を寄せた。


                                 「・・・!?」


                   見開かれる瞳、そしてオレを押しのけた。


               「触れないでくださいオレの手は血で汚れています・・。


                           あなたまで汚してしまう。」


                 伸ばしかけたオレの手を拒絶するように自分の手を見つめて呟いた。


                           まるで消えてしまいそうに・・。


              「いいじゃないですよ。汚れるぐらい構いません。


                   元々、オレの手も汚れていますし・・二人で一緒になれば。」


                    「かかし先生・・。」


           訊ねるように、探るように見上げられた視線に
いつになく優しく笑んでみせた。


              「二人で一緒になれば・・お互いの汚れが同じくなりますよ・・。」


                  「かかし先生・・あなたという人は。」


                   「これでオレたち同じですね・・。」


                やっとこれでアンタはオレと同じトコまで堕ちてきた。


                  すみませんねぇ・・わざと辛い事を思い出させるマネをして・・


              でもね、アンタには同じトコにいて欲しいから・・だって

                全てを
忘れて解放されちゃうなんて・・ねぇ。


             残されたオレはどうなるのよ・・。ごめんね、オレのエゴで・・。

 
                   でもこれでアンタとオレは同じ・・一緒に歩いて行けるね・・。


                        一緒に堕ちるとこまで堕ちましょうよ・・。


                 きっと、あの静かに泣いている姿を見た時から


                 オレは狂いはじめていたのかもしれない・・。


                      「あ・・見てください。」


              自分の腕の中のイルカが呟き、見上げると・・降り出した雪と共に


                    淡い血潮色の花弁が風に舞っていたのだ。


               「綺麗ですね・・。これであの『朱神』も一人ではないですね…」


                        「ええ・・。」


               オレがアンタを求めたのと同じくこの桜も引き寄せられたのだろうか?


                      もうひとつの桜によって。


                    雪の上に落ちる花弁に目をやる。


             赤い花弁が白い雪を包んでいく、まるで血で汚すように・・


                   その光景にオレは目を細めた。


                  穢されていくアンタに見立てて・・。



                        これで同じ・・



                       同じですね・・。


               

                        

                      

              


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BGMby:【Little*Music】
        最後の恋



長かったですが。これでやっと終わりです。
いや〜・・・本当に懐かしいな。
ツッコミどころ満載ですが気にしないで下さい。
お付き合いありがとうございますv