

それは、もう何年も昔の事で・・。だから相手が憶えているとは到底思えない。
だけど・・・・それがオレの今を生きる理由と成った。
その頃、まだ二親を失う前で。
否、正確には失う一月か二月前だった。夢中だったんだ。
早く強くなろうと・・早く大きくなろうと。
少しでも二人に追い着き、二人の役に・・火影の為に・・この里と共に生きれるモノになろうと。
それが、ずっとオレ自身が見て追いかけてきた二親の姿だったから。
いつかはオレも・・。それを信じて疑わなかった。
あの日・・総てが脆く崩れ去った。
大きな音を立てて、ガラガラ・・・と崩れ去った。
その癖、取り残されたその夜は嘘のように静寂に包まれていた・・・。
総てを失った日。
あの九尾と共に・・・里の全ての人達が何らかの貌で総てを失った日。
泣き叫ぶ気力も無く・・唯じっと両親、火影様の尽きたであろう遥か遠くを見詰めていた。
空っぽの瞳で・・。
不意に影が自分の顔に射すのに気がつき顔を上げる。
今の今まで誰もいなかった其処に一人の暗部が立ち尽くしていた。
中空に浮かぶ月明かりを受けて、その銀の髪が煌々と光っている。
ぼんやりと見上げるオレに、ゆっくりと歩み寄ると、スッと手を差し出した。
「・・・・。」
無言で差し出されたモノに手を伸ばすと、ぽとり・・とその上に落とされた。
「何・・これ・・?」
きっと、そう年も離れていないだろう暗部の少年は・・聞き取り難いくぐもった声を発した。
「・・・先生からだ。頼まれものだよ。」
そう言って彼は姿を掻き消した。
手に落とされたものに目を遣れば、それは科木の種子。
不意にいつか、四代目の言っていた言葉が頭の中に蘇える。
「・・ボクはね、イルカ。もし生まれ変われるとしたら大きな木に生りたいんだ。
そうだな、この科木みたいに大きく、どっしりと大地に根を張ってね・・
みんなを見守り続けたいな。暑い日差しから守り・・風にそよがれて散っていく。
そして再び芽吹くんだ。ね、いいだろ・・なんか。木はね、自分が立枯れてしまっても
絶対に種子を残すんだ。自分の亡骸を糧に再び新しい芽が顔を出す・・ひょっこりとね。
ず〜・・・とその地に、脈々と受け継がれていく。大地に根を降ろし・・いつかは次のモノへと
明け渡すんだ。だからイルカは森を守ってよ。そしたら・・この木葉を・・ひいては
ボク自身のことも守ってることになるんだよ。」
その時は、訳がわからずに笑ってしまった。
どうして、そこで森を守れと繋がるんだ?と。
だけど四代目は優しく笑いながらいつかは分かるよと言っていた。
その時誰かもいた筈だ・・・。
ハッと息を飲む。まだ、そう遠くへは行っていない筈だ。
必死に駆け出していた。
何でその時にそうしたかなんて分からなかったけど・・そうすべきなんだと思った。
はたして彼はそこにいた。
当然のことながらオレの気配に気付いていた。
「なに?・・何か用・・?」
「き、君は大丈夫なのか?」
何が言いたかったのだろうか?だけど、その言葉に彼はゆっくりと振り返った。
「・・・オレにはね、まだ守るものがあるから・・。」
「ま、守るもの・・?」
彼の気配はいつも四代目の背後に控えていた頃と変わらなく、まるでまだ四代目を
守っているかのようだった。
「そう。あの人にいっぱい頼まれたからね〜。」
「四代目にかい?」
「そう・・。だから悲しんではいられないんだ。」
何かをじっと耐えてるみたいで、反って痛々しいその声が直に自分の内側に
響いた気がした。
「さて、そろそろ行かないと・・。」
そう言ったが早いか彼の身体は崖の下に揺らぐ。
「君の頼まれたものって、何なんだよ!!オレはどうしたらいいんだよ!」
消える手前で声が虚空に響く。
−それは君自身。それに・・
君は里を守ればいいんだ。あの人達が必死で、命を掛けてまで守ってくれたものを。
「え・・」
一人残され、オレはその場に座り込む。
ゆっくりと、ゆっくりといろんな人の言葉が自分の中に響いて落ちていく。
もう・・考えるのも煩わしい。
ならばいっそ、考える事を放棄して・・・・守れば良いのでは。
彼が言っていたかの様に、この里自体を。
それによって、オレの気持ちは救われるのかもしれない・・。
ならば、そうしよう。
次の木の芽が芽吹くまで・・オレはその大地を守り続ける。
そうして・・・オレは闇の中へと身を沈めた。
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はいvなんでイルカが暗部にいるか〜?ってことで書いてみました(苦笑)。
言い訳・・・守りたいモノや目標にしていたものを一片に見失った彼が
カカシの言葉で道標を見つけたんです。実はカカシはそんな意味で言ったつもりは
ないんですがね・・疲れきっていたイルカ君にはそう伝えわったということです(^^;
BGM by:遠来未来「浮放華」