木の葉のように
緩やかに・・
血腥い話を上の者達がしているのを、小耳に挟んだのは・・

もっと前のことで

こっちとしては全く聞くつもりもなかったんだが、何となくそれは入って来ていた。

忍びの習性だろう。

単語でブツ、ブツ・・と入ってきた言葉。

【元からの期限付きの糧】、【刻まれ出した時】、【先天性遺伝】、

そして・・・


【鴉】。


自然と体が強張る。一体、何の話だと聴覚を研ぎ澄ますが・・・よく聞こえない。そして御誂え向きにも

奥の院の扉が開き、人が近付いてくる気配がした。このまま見つかったらいくら自分でも

ちょっとマズい。

スルリ・・と気配を掻くと、天井の暗闇にじっと息を潜ます。

この状況は、生半可な任務よりもスリルがあって、

集中力が必要な気がして・・不謹慎にも自分の置かれている状況を考えずに面白いと感じた。

自分のしたを何も気付かすに、重役と呼ばれるモノ達が過ぎ去っていく。

なんて間抜けなんだ・・と不意に嫌気がさすが、年寄りとはそういうものだと考え直す。

気配が跡形もなく消えた後にゆっくりと、その場に降り立った。

【先天性遺伝】という言葉がどうも引っ掛かるのを感じながら、ゆっくりと歩み始める。

そしてもう一つ・・【鴉】という言葉。

【鴉】には二つの意味がある。

一つは暗部の中でも特に医療や薬草、毒系のエキスパート集団の全体の総称的なもの。

まぁ、これ自体も正式なものでなく

他の暗部から呼ばれる俗称みたいなものなのだが。

そしてもう一つが、ある一人の男を指して呼ばれた名称だ。【鴉】に属しながらも

実行部隊と連携に借り出されるその男は常に黒色衣を羽織、

まるで鳥のように舞うその姿から皮肉とも取れる、その字と手に入れたのだ。

もしも、あの古狸たちが話していたのが後者を指していたというのならば・・・。

ゆっくりと家路を歩く。

そして路地の暗がりの中へ差し掛かったときだった。

「余りアイツには関わらない方が身の為ってもんだぜ。・・・辛くなるのはお前だよ。」

耳元を掠める風鈴の音。

「季節違い過ぎないか?・・ゲンマ。いや・・もと【鴉の総大将】、白鴉さんとでも言うか?」

「おいおい。そりゃ、また古い話を・・カッコ悪いから辞めてくれや、その呼び方はよぉ。」

左手に摘まむように持っている赤い風鈴が妙に鮮明に見える。

また、ちりり〜・・んと小さな音を夜風の中に立てる。

その音は今となっては少々、肌寒さを感じさせた。

「たく、実行部隊はそんなにオレらにあだ名つけるのがすきかね〜・・。」

ククク・・と笑うと、今まで腰掛けていた岩から腰を浮かした。

ゆらり、ゆらり・・と肩を揺らして歩くその横に同じ様に肩を並べて歩き出す。

「・・オレはお前の事、嫌いじゃないんだけどね。」

「オレは嫌いだ。」

「あらまぁ、端的に言ってくれるじゃないの。ツレナイねぇ〜。」

ゲンマの揺れに同調して微かな風鈴の音が響く。

月の光は建物の陰に遮られ・・一本の暗闇の続く路地となる。

「・・アイツって・・・【鴉】のことか?」

「だと思うか?ならそうなんだろうなぁ。」

のらり、くらり・・と交わす、この男の物言いが苦手だ。

見たいものは確実に手の届くとこにあるのに、

この男が相手だと、決まって何故か小癪な手によって目隠しされたかのようになる。

「お前のそういうとこ、嫌いだ。」

「ありがとうよ。」

ニッと笑うと、少し先をゲンマは歩き出す。

「どんな感情であれ、人から感心を持って戴けるなんざ・・いい気分だぜ。

何よりもオレの存在証明になるってな。」

「おい・・ゲンマ?」

やっぱり後一歩で歩み寄ることが出来ない。この間隔も嫌いだ。

不意に立ち止まり・・夜空を仰ぎ見るゲンマ。

だけど動くことができない自分がいて、もどかしく思う。

目の前にあるのに手が届かないモノは


総て・・嫌い・・否、苦手だ。


俯いたカカシの耳に、ざっと地面の土を蹴る音が聞こえてくる。


くるり・・と振り向くゲンマのその顔には、一つの白い面。【鴉】部隊が着ける黒地の鳥面と色違い。

白鴉・・−。

「それと・・悪戯が過ぎないことだな。大老が気付いてないなんて在り得ないからね。」

「な?!」

「おイタが過ぎるってな。・・・忘れるべきかもな。」

耳にすり抜けていく言葉と風鈴の音。

一本の闇は解けて、大通りへと流れ込む。




気がつけばカカシは一人で呆然と立ち尽くしていた。

周囲の喧騒が耳に聴こえてくる。

軽く頭をふると、何故か耳の奥に風鈴の音が聴こえた気がした。










「おい、ゲンマ!!いるんだろ!」

勢いよくドアを打ち叩く。反応が無い・・もう一度叩こうとする、その手を後ろから掴まれた。

「壊す気か?これでも官舎なんだから大事にしてくれよね。」

「イルカ先生は、どこに行ったんだ!」

「何でオレんとこ来るかな?」

あくまでもシラを切り通そうとする、その姿に苛立ちを覚える。胸倉に掴みかかり、

咬みつくかのように声を絞り出す。

「アンタ、いい加減にしろ!イルカ先生の命が掛かってんだ!」

「・・なら、尚更だな。それに・・知らないもんは知らない。」

ドン!!と勢いよく壁に押し付けると、睨み上げる。ギリリ・・と奥歯が音を立てる。

「人の命だ。しかも・・イルカ先生なんだぞ!それでもアンタは言わないつもりか!」

「それを言うなら、人の命に差なんて無いんじゃないか?

えぇ?お前が一番分かってると思ってたんだがな。

 任務事項は極秘だという事。それが如何に大きな被害を

及ばすかぐらい分かってない訳ないだろうな?!」

ドス!と鈍い音を立ててゲンマが下に落とされる。

「あいつの腕なら大丈夫だよ。」

呟いたゲンマに・・「それをアンタが言うか?・・オレが忘れてると思うのか?あの夜の会話を。」


すっと眇められる視線。


「あの会話の意味が、やっと分かったんだよ。」

そう残すと、カカシはその場から姿を掻き消した。


【元からの期限付きの糧】、【刻まれ出した時】、【先天性遺伝】、


そして・・・【鴉】




その総てはイルカを現わしていたのだ。

厭な予感がしていたのはいつからだろうか・・。

彼の着痩せした体を見た時か?

それとも・・【鴉】の姿を目にするようになってからか?









だけど・・・一番オレを不安にするのは、イルカ先生・・あなたの言葉と笑顔なんだよ。












Back to4    Next to6




BGM by:煌く星の記憶【涙】