

あれから・・・オレはイルカ先生の姿を目にする事はただ一度もなかった。
それなのに、里は何一つも変わらずゆっくりと日々を重ねる。
アカデミーにも代行の教師が赴任して穏やかな日は続いていた。
ただ、ぽっかりと空いてしまったオレの感情を残して・・・。
「よいな・・・決して仕損じる事の無き様に・・。それと今回は内部のみ極秘に行なわれる任務だ。
少数精鋭でいかせて貰う。だが、少し難なのはお前等は強調性というものが欠如しておる。
今回ばかりはワシの命と思い・・それを保て。」
返事はしない。だが、コクリと頷いてみせる。相手も同じく頷いたのが視界の端に掛った。
その様子に、はぁ〜・・と深く溜息を火影はついた。
「分かったなら、行け。」
短い号令と共に二人の暗部は姿を消した。
今回の任務についての詳しい内容はハッキリとは伝えられなかった。
里より北方の地で幾人もの暗部や上忍が一人の忍びに依って殺されているという事実。
そして、それはどうも木ノ葉の忍だという情報と
ただ一言・・・「奴に従がえ。」と言われたのみだった。
奴とは、オレの少し前を走る・・不知火ゲンマその人だ。
初め、この任務にオレが着くと聞いた時にその表情が微妙に変化したと
アスマから聞いていた。
―何か厭な匂いがしやがる。気をつける事には越した事ないと思うぞ、オレはよ。―
そう呟いていたアスマの何とも言えない表情がチラツク。
「・・オレはあんまり今回の任務はお勧め出来なかったんだけどな。」
第一ベースに辿り着き、一段落した頃に
ぽつりとゲンマが呟いた。
「お前は偶像崇拝だと言われたら・・仏を破壊出来るか?ただ一人の自己の神の為に。」
「は?!」
意味が解らないと言えば、―オレもよく解らないが・・まぁそんな感じだ。と返された。
「それじゃぁ、オレはもっと分からないデショ・・?もっと解り易く話してよ。」
「あ〜・・だからよ。」
パキっと焚き火の中で枝が弾ける音がした。その火を見詰めながら、困っているのか
面倒臭いのかゲンマは顔を顰めた。
ゆらゆら・・と揺らめく火が同じ様に揺らめく影をその横顔に落とした。
「お前の神はどっちだ・・て事だ。信じるのは・・何だってことだ。ソレによって、
それによって・・今回の任務、相手が変わるだろうよ。」
そこ迄言うと、
「悪いな。これ以上は言えないんだ。ある意味・・誘導に引っ掛かっちまうんでな。」
カカシに毛布を投げて寄越すと、順番に仮眠を執るから
先に寝ると善いと促した。
テントの方を見遣ると、ゲンマは深く溜息をついた。
きっと、この流れは自分には止められない事もそしてどんな結末を迎えるかも解っていた。
だけど自分は導くしかなかった。その結末へと向かう指針を示し・・
ゆっくりと漕ぎ出すしか。
幕を引くのは己ではない・・そう彼らなのだ。
この地を経ち、目的の場は着いた時・・彼はどちらを選択するだろうか?
その時、自分は・・果たして。
あの日、その言葉を本人の口から聞いた時から歯車は廻り出した。
否、もっと表現が違う。
そう、ゆっくりと・・ゆっくりと・・・ハラハラと風に舞うかの様に
木の葉の様に緩やかに・・
それは彼らを蝕んで往ったのだ。
どちらもそう・・【マモリタイ】と言う気持ちは同じだったのだろう。
だけど、それが必ずしも同じ方向を向けるとは限らない。
【マモリタイ】対象が同じであっても違えてしまう事もあるのだ。
其々が信じるモノによって・・・。
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BGM by:【other side the dark】